Washington Files

2020年3月9日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

米大統領選民主党候補を争う「スーパー・チューズデー」で穏健中立派のジョー・バイデン氏(77)が予想外の大勝利に終わった背景として、各州民主党有権者たちの多くが「トランプ再選」の恐怖感から目覚め、直前に投票所に殺到した構図が鮮明になった。

 3日、一斉に実施された「スーパー・チューズデー」予備選では、バイデン候補が急進左派のバーニー・サンダース候補(78)相手に、14州中10州を制し、米専門家の誰もが予想だにしなかった驚きの結果となった。

 そこで実際にバイデン氏が勝利した各州について、投票当日に至る事前の世論調査支持率推移を改めて点検したところ、以下のようなまさに“開けてびっくり”の実態が浮かび上がってきた:(ここでは有力デジタルメディアFiveThirtyEightの世論追跡データを主として参照)

・テキサス州(代議員228人)

 3月1日調査結果 1位=サンダース35%、2位=バイデン25%

 3月2日     1位=サンダース28.2%、2位=バイデン25.5%

 3月3日投票結果 1位=バイデン34.5%、2位=サンダース30%

・マサチューセッツ州(代議員91人)

 2月29日調査結果 1位=サンダース24%、5位=バイデン11%

 3月2日      1位=サンダース27%、3位=バイデン17%

3月3日投票結果  1位=バイデン33.6%、2位=サンダース18%

・バージニア州(代議員124人)

 2月25日調査結果 1位=サンダース28%、2位=バイデン19%

 3月2日      1位=バイデン42%、2位=サンダース28%

 3月3日投票結果  1位=バイデン53%、2位=サンダース23.1%

・ノースカロライナ州(代議員122人)

 2月28日調査結果 1位=サンダース31%、3位=バイデン14%

 3月2日     1位=バイデン36%、2位=サンダース23%

 3月3日投票結果 1位=バイデン43%、2位=サンダース24.1%

・ミネソタ州(代議員92人)

 3月2日調査結果 1位=サンダース27%、3位=バイデン20%

 3月3日     1位=サンダース26.2%、2位=バイデン18%

 3月3日投票結果 1位=バイデン38.6%、2位=サンダース29.9%

 上記のような経過が示す通り、テキサス、マサチューセッツ、ミネソタ3州においては、サンダース氏が投票日直前まで、そしてバージニア、ノースカロライ両州においても投票数日前まで、サンダース氏がバイデン氏をかなりの差でリードしていたことがはっきりしており、通常の選挙パターンなら、常識的にはこのままサンダース氏が投票日ゴールラインにトップで駆け込んだはずだった。

 そうなった場合、上記の主要5州のほか、サンダース氏が実際に勝利を収めた最大州カリフォルニア(代議員415人)、コロラド(80人)、ユタ(35人)、バーモント(23人)各州を加えることで、スーパー・チューズデーのレースは逆にサンダース圧勝という衝撃的結果を招き、このまま今夏の党大会に向けてサンダース氏が指名獲得をほぼ確実にしていた可能性が高い。

(vichinterlang/gettyimages)

 しかし、実際にふたを開けると、土壇場でまったく逆の結果となった。一体、何が起こったのか?

 有力オピニオン雑誌として全米でも幅広い読者層を持つ「ザ・ニューヨーカー」は3月5日付けの最新号(電子版)で,「スーパー・チューズデーはジョー・バイデンではなく、主にドナルド・トランプについての審判だったSuper Tuesday was Mainly About Donald Trump, not Joe Biden」と題するベテラン記者の興味ある論評記事を掲載した。

 同誌は、番狂わせの背景として、①民主党体制派が、このまま投票日に臨めばサンダース圧勝の公算大とみて、最後にこれを阻止するための陰謀を仕掛けた②スーパー・チューズデー直前で、それまで同じ中道派候補としてレースに参加していたピート・ブティジェッジ、エミー・クロブシャー両氏が撤退ともにバイデン支持を表明した―ことなどに言及した上で、以下のように論じた:

 「しかし、これらの指摘は、今年の民主党予備選を通じた最大ファクターを過少評価している。すなわちそれは、『トランプ再選の恐怖fear of Trump getting a second term』にほかならない。私の経験に照らせば、ほとんどの民主党員は、何としても(必死にもがいてでも、と表現してもいいかもしれないが)トランプをホワイトハウスから追放したいと念じており、そのためには戦う相手がだれであれ彼(大統領)を打ち破るのに最もチャンスがある候補に投票することにしたのだ。すなわちトランプの存在が彼ら有権者を突き動かした。候補者たちの掲げる主要な政策スローガンに自分たちが同意する、しないではなく、とにかくトランプに勝てる人物に投票した。バイデンにはいろいろ欠点があるにしても、サンダースよりトランプを打ちのめすチャンスがある、と結論付けた結果だった」

  ニューヨーク・タイムズ紙も5日、同様に予想外の結果となったバージニア州現地報告を掲載、①同州予備選史上、新記録となる130万人以上の有権者が投票した②本来ならサンダース支持の多いヒスパニック系有権者の中でも、バイデン氏が13%差で勝利した③州全体の出口調査によると、有権者の過半数が投票日24時間前に支持候補を最終決断し、そのうちの3分の2がバイデン氏に投票した―などと報じた上で、「私は直前までエリザベス・ウォーレン候補支持だったが、投票日前日に考えを変え、バイデン氏に投票した。何とかしてトランプをやっつけたいの一心だった」との中年女性の告白を紹介した。

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