Washington Files

2020年3月18日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 米大統領選民主党候補レースの先頭に立つジョー・バイデン氏(77)は、17日行われたフロリダなど主要3州予備選でも対立候補のバーニー・サンダース氏(78)に大差をつけ勝利した結果、7月党大会での指名獲得がほぼ確実となってきた。同氏陣営はすでに、11月本選でのトランプ大統領との一騎打ちを見据え、本格的勝利戦略の作成に着手し始めている。

(Yuliya Baranych/gettyimages)

 バイデン候補は去る3日の“スーパー・チューズデー”および10日の予備選・党員集会に続き、17日、多くの代議員を擁するフロリダ、イリノイ、アリゾナの主要3州での予備選でもサンダース候補を圧倒、今後残り諸州での予備選を待たず、最終的な党指名候補なることはほぼ決定的となった。(政治専門サイトFiveThirtyEight調査では確立99%)

 バイデン氏は同日夜、地元デラウェア州ウィルミントンの選対本部からネットを通じて勝利宣言を行い「われわれにとって非常に大きな夜を迎えた。私は今後待ち受ける課題が何であるかよく承知している。(最終的に)大統領候補としてやるべきことは、民主党の結束と国の統一だ」として、11月本選に向けて、サンダース陣営にも秋波を送った。

 これより先、同候補は15日、サンダース氏とのTV討論会で、副大統領候補に女性を指名することを明言した。大統領就任前から相次ぐ女性スキャンダルに見舞われ、女性有権者に不評のトランプ氏との違いを浮き立たせ、本選での戦いを有利に進めるための布石とみられている。

 具体的にバイデン陣営が11月「トランプ対決」に向けた態勢づくりに着手したのは、“スーパー・チューズデー”での予想外の大勝に続くミシガン、ミズーリ、ミシシッピー、アイダホ4州予備選での「圧勝」が判明した10日夜からだった。

 真っ先に動いたのは、民主党政治資金団体の中でも最大規模の“スーパーPAC(政治活動委員会)”として知られる「Priorities USA」だ。全米の民主党系支持組織に強大な影響力を持つガイ・セシル同委員長が同日、ただちに公共ラジオ放送「NPR」のインタビューに応じ「われわれはこれまで中立の立場をとってきたが、今や獲得代議員の算式はバイデン指名へと一直線に進むことが明確になった。したがって今後は、バイデンの11月勝利に向け全力で支援していくつもりだ。本選でカギを握るペンシルバニア、ミシガン、ウイスコンシンなどの拠点州を中心にTV、オンライン広告作戦への資金投入にも力を注ぎたい」と述べた。

 続いて別のPAC「American Bridge」も同様に、バイデン支持方針を最終決定、すでに今年初めから再選に向けて潤沢な資金集めに乗り出してきたトランプ陣営と対抗していく構えを前面に打ち出している。

 これを受けバイデン候補は早々と12日、本選で中心的役割を担う選対本部首脳陣営の刷新を発表した。

 それによると、選対本部長campaign managerには、オバマ再選委員会(2012年)最高幹部の一人だったジェニファー・ディロン女史(43)、チーフ・ストラテジストにアニタ・ダン現バイデン候補上級顧問(61)が同日付けで新たに就任、これまで同氏の選対本部長だったグレグ・シュルツ氏(39)は、選対本部にとどまり、今後は民主党全国委員会(DNC)など関連組織との連絡調整責任者となることが決まった。

 米主要各紙によると、バイデン氏は、これまでサンダース氏はじめ各民主党候補間で争ってきた予備選とは戦いの性格が根本的に異なる本選に向け、陣営の体制強化は不可欠と判断、すでに2012年オバマ再選で実績を挙げ、DNC委員長の経験もあるディロン女史に白羽の矢を当てたという。

 そして本選対策の第一弾として早速打ち出されたのが、バイデン氏が15日、サンダース氏とのTV討論の場で表明した「副大統領候補に女性を起用」の確約であり、ディロン女史の進言を直接受け入れたものだった。

 これまで米国政治史を通じ、予備選段階で一時的に女性が副大統領候補として登場したことは過去2回あるが、正式指名には至らなかった。今回もし女性が7月の党大会でバイデン氏と並び最終的に副大統領候補の指名を獲得すれば史上初となり、全米有権者の52%を占める女性層の間での関心が大いに高まることが十分予想される。その候補としては、予備選前半で競い合ったカマラ・ハリス、エリザベス・ウォーレン、エミー・クロブシャー各候補らが有力視されている。

 副大統領候補への女性起用は、女性有権者を対象としたこれまでの各種世論調査で「不支持」が「支持」を圧倒的に上回るトランプ陣営にとっては、侮り難い要警戒材料だ。

 また、「トランプ打倒」をめざす民主党選挙戦略の基本スタンスとして「正常への回帰Return to Normal」路線を前面に押し出していくこともほぼ内定している模様だ。

 有力デジタル・メディア「Axios」が3月9日付で報じたところによると、その狙いは、就任以来、人種差別発言、不法移民制限のための「壁」建設構想、気まぐれな閣僚人事などの内政だけにととまらず、一貫性を欠く対イラン、北朝鮮、NATO(北大西洋条約機構)安保政策含め内外に様々な混乱を引き起こしてしてきたトランプ政権の過去4年近くの“負の実績”と対比させ、「正常で安定した政府normal and stable government」を取り戻すことにあるという。

 このため「バイデン政権」発足の暁には、主要閣僚人事面では、オバマ政権下で十分な経験を積んだベテラン、さらには今年の民主党予備選で競い合ってきた有力議員らの抜擢

も検討されており、具体的には、国務長官には、オバマ政権下で国務長官を務めたジョン・ケリー氏、大統領補佐官(国家安全保障担当)だったスーザン・ライス女史らの名前も取りざたされている。

 このほか、財務長官としてウォーレン女史のほか、司法長官には、ロシア疑惑追及に関連し、議会調査に協力したことでトランプ大統領から解任されたサリー・イェイツ司法次官、ハリス女史ら、世銀総裁には億万長者で今後の選挙資金援助を約束しているマイク・ブルンバーグ氏らの起用も話題に上っているという。

 一方、迎え撃つ側のトランプ陣営は、去る2月初め、それまで最大の懸念材料だった「ウクライナ疑惑」をめぐる弾劾裁判で無罪評決が下されて以来、大統領自身も機会あるごとに地方遊説に出かけ、好調な経済と雇用拡大を背景に熱狂的支持者たちの前で得意の「再び偉大なアメリカを!Make America Great Again(MAGA)」スローガンをアピールするなど、いよいよ再選への自信を強めつつあった。

 さらに、民主党予備選では当初、急進左派のサンダース氏が有利な戦いを進めるにつれて、サンダース氏と中道穏健派の他の候補たちとの間で「深刻な党内対立」の不安が高まり、トランプ陣営では内々に、歓迎ムードが広がっていたといわれる。大統領自身も、民主党の異端分子であるサンダース候補の善戦ぶりにエールを送るツイートを発したことが何回かあった。

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