Washington Files

2020年3月23日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 アメリカでコロナウイルス危機による学校閉鎖、外出自粛、工場操業停止など国じゅうが沈滞ムードに包まれる中、11月に迫った大統領選への影響をめぐるかしましい論議が専門家、メディアの間で始まっている。

 「政治生命にとどめ」、「いや国民は戦時下大統領に結束」-コロナウイルス危機がトランプ大統領再選に与える影響について、政府の対応ぶり含め、今のところ評価は真っ二つに分かれる。

 政治専門のデジタル・メディア「Politico」はトランプ再選委幹部の発言として「初期対応に問題があったとしても、パンデミックがおさまり、経済が安定してくれば、国民は『トランプはよくやった』と評価するようになる」と伝えた(3月17日付)。

 これに対し、有力オピニオン雑誌「Atlantic 」は、ブッシュ政権当時の別の共和党幹部の話として「トランプがコロナウイルス騒ぎに早く対応していれば、危機は回避できた。責任回避を続ける大統領に国民は愛想をつかしている。彼の政治生命は終わった」と指摘した(3月13日付)。 

(Unimagic/gettyimages)

 そこで本論に入る前に、まずアメリカでの最初のウイルス感染者が確認されて以来、現在の深刻な危機に至るまでの大統領自身の言動と政府の対応ぶりを振り返ってみよう。

  • 1月21日、ワシントン州シアトルに中国から帰国した米国人が初感染。
  • 22日、トランプ大統領「たった一人だけだ。全く心配いらない。すべて状況はコントロール下にある」。
  • 30日、WHO(世界保健機関)が「公衆衛生上の国際的危機」宣言、国務省が中国への旅行自粛呼びかけ。
  • 同日、大統領「現時点で感染者は5人かそこら。その彼らも回復に向かっている。我々にとってハッピー・エンディングを迎えることになる」。
  • 31日、国務省が過去14日間の中国国内外国人旅行者に対し入国制限措置。      
  • 2月10日、大統領「春までには騒ぎは収まっている。4月にはウイルスは消滅している。われわれの対策はすべて非常に良い状態にある」。
  • 13日、CDC局長「危機収拾は春以降、今年以降まで続く」。
  • 24日、CDCが、感染者が35人に増えたことを確認するとともに、「感染は確実に拡大していく」と警告。同時に政府が緊急対策予算として12億5000万ドルの支出を議会に要請。
  • 26日、大統領「まもなく感染者は5人か、1~2人程度に減る。とにかくその数はアップではなく、ダウンしている。われわれは非常にラッキーだ」。
  • 28日、大統領「民主党の連中が騒ぎ立て、政治利用している。彼らの言っていることはでたらめだらけだ」。
  • 29日、米国内で最初の感染者死亡を確認。政府はイタリアおよび韓国の特定地域への旅行制限。
  • 3月3日、CDCがウイルス感染テスト実施の制限を撤廃。
  • 4日、WHOが世界感染者死亡率は推定3.4%」と発表。
  • 同日、大統領「それは全くの間違いだ。自分の直感では1%以下だ。インフルエンザにくらべ、コロナウイルスははるかにマイルドであり、静かに座って、普通に仕事をしていれば、自然に治る」。
  • 7日、大統領「まったく心配無用。すべてうまくいっている」。
  • 11日、大統領が執務室から特別声明を読み上げ、英国を除く欧州諸国からの入国禁止措置を発表。
  • 13日、大統領が「国家非常事態」を宣言、感染拡大阻止のために各州向けに500億ドルの緊急援助を行うことを発表。
  • 15日、新たに感染者737人、死者11人が判明。
  • 19日、新たに感染者4530人、死者57人が判明。
  • 20日現在、米国内感染者総数1万4365人、死者217人に。

 上記のような経過が示す通り、トランプ・ホワイトハウスは最初の感染者が確認された1月21日以降、3月初めに至るまで、コロナウイルス感染の深刻さを軽視し続け、初期対応はお粗末の限りだった。ようやく3月13日の「非常事態」宣言以来、手の平を返したように、ここぞとばかり思い切った緊急策を打ち出し始めた。

 そこでにわかに関心が集まり始めたのが、国全体が「リーマンショック以上」といわれる経済不況に直面しかねない状況の中で、11月の大統領選でのトランプ再選に今回の危機がどう跳ね返るかという点だ。

 そして現段階では「再選は困難になる」とする意見が目立つ。

 その背景として、以下のような要因が指摘される。

  1. 株価の暴落が続き、トランプ大統領が就任した2017年1月20日と同水準まで下落した結果、最近まで好調な経済成長を背景に上昇基調を続けてきた「トランプ相場」がコロナウイルス危機ですべて帳消しになった。大統領選挙での勝敗は、その年後半の景気動向に大きく左右される上、11月の投票日前までに景気反転の可能性は低いとの悲観的見方が出始めている。
  2. 国民の大半が、トランプ政権による後手後手の初期対応の結果、深刻な危機に発展したとの批判を強めており、かりに投票日前に事態が収拾したとしても、本選に向けた今後の選挙戦で民主党候補による激しい攻撃にさらされる。
  3. 過去の例を見ると、カーター民主党政権下の1980年、ジョージ・H・W・ブッシュ共和党政権下の1988年に行われた二つの大統領選挙では、いずれも当時の経済低迷に苦慮した両大統領が支持を得られず敗退した。
  4. 近年、有権者全体に占めるシェアが拡大しつつある65歳以上の高齢者層の多くは、2016年大統領選ではトランプ支持に回ったが、今回のコロナウイルス危機の場合、高齢者たちは医療対策面の不備、不況による生活圧迫の深刻なダブルパンチに見舞われており、政権批判を強めつつある。

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