Washington Files

2020年3月23日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

「ピンチはチャンス」

 しかし、これとは全く逆に、危機体制下では現職大統領が圧倒的に有利になるとの見方も少なくない。「ピンチはチャンス」というわけだ。

 それは以下のような理由による。

  1. 「9・11テロ」に見舞われた時のジョージ・ブッシュ共和党大統領、リーマンショックが引き金となった「世界同時不況」の直撃を受けたオバマ民主党大統領はいずれも国民に結束と忍耐を呼びかけ、2002年および2012年の大統領選挙でともに圧勝、再選をはたした。トランプ大統領もコロナウイルス危機対策で積極果敢な政策を打ち出せば、再選の可能性が十分ある。
  2. 1929年大恐慌の際、フランクリン・ルーズベルト大統領が主導した「ニューディール(新規まき直し)政策」に国民の絶大な支持が集まった。今回の場合も、「戦争状態」にも等しい深刻な状況に直面しつつあるが、トランプ大統領の下で11月選挙までに事態収拾に成功すれば、2016年選挙の時以上に大差で勝利する可能性さえ見えてくる。
  3. げんに大統領はコロナウイルス危機について当初から軽視してきたにもかかわらず、最近になって姿勢を180度転換、「この戦いはまさに戦争だ。私は戦時大統領だ」と記者会見で公言しており、富裕層を除く一般市民を対象とした一人当たり1000ドル以上の現金給付、失業者の救済など思い切った支援策をなりふり構わず打ち出し始めている。
  4. 連邦最高裁は、脱税疑惑がもたれる大統領の過去の確定申告関連資料提出を求める民主党側の訴訟について、近く最終審理を開始予定だったが、コロナウイルス危機の影響により先延ばしになった。ウクライナ疑惑をめぐる議会聴聞会へのホワイトハウス、政府関当局重要証人の証言も同じ理由で延期となった。
  5. 民主党陣営は、全米マスコミが大々的に報道する7月党大会での指名候補確定を契機に一気にムードを盛り上げ、その勢いに乗って「トランプ打倒」の地方遊説や大規模市民集会を各地で行う予定だったが、ホワイトハウスが感染拡大防止のため「10人以上の集会の自粛」呼びかけを行ったことから、開催めどが立たなくなった。


 ただ、「危機に直面」という単純な理由だけで、国民が最後までこぞって大統領支持に回るとは限らない。

 カーター政権下の1979年11月で起こったイランの米大使館占拠・人質事件がその一例だ。当時、筆者はワシントン特派員だったが、国挙げて過激派イラン人学生グループによって囚われの身となった館員52名の無事釈放を祈り、政府による事件の早期解決を期待した。全米各地では住宅街の至る所で、国難に直面した際の結束のシンボルとされる黄色のリボンが街路樹に結ばれ、玄関先で星条旗がはためいた光景を鮮明に覚えている。しかし、80年4月、米軍による救出作戦も失敗、結局、人質全員が無事解されたのは、事件発生から1年3カ月後の81年1月だった。カーター大統領支持率は急落し、80年11月大統領選挙ではレーガン共和党候補の挑戦を受け、敗北した。

 米国民は危機に直面した際に、発生時は大統領の下に結束するが、政府が対応を誤り、緊急事態収拾に手間取った場合は、大統領支持から離反するという教訓にほかならない。

 結局、トランプ大統領が再選を果たせるかどうかは、コロナウイルス危機をいかに早期に封じ込め、危機脱出後の景気回復に向けてどの程度の具体的成果を上げられるか―その一点にかかっているといえよう。

  
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