2023年1月28日(土)

Washington Files

2020年3月30日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

苦しい立場のバイデン

 これに対し、苦しい立場に置かれているのが、バイデン氏だ。公職を離れ、コロナウイルス危機にかかわる政府や議会の審議に携わり、積極発言する立場にもない。

 また、「戦時下の大統領」であるトランプ氏が取り組む危機対策に対し傍観者的な批判を

繰り返せば、11月本選でかえって有権者からのしっぺ返しを食うことにもなりかねない。

 このため、バイデン氏は現在、派手な選挙活動も自粛し、地元デラウェア州の自宅にこもって静観の構えをとっている。

 しかも、コロナウイルス危機の収拾が長引けば長引くほど、本選に向けた準備が遅れる一方、危機対応がそのまま再選に向けたPR作戦につながるトランプ大統領に大きく先行を許すことになるだけに、焦燥感も募る一方だ。

 こうした状況を踏まえ、民主党有力者の間から、殻に閉じこもったかたちとなった最近のバイデン氏に対し、警鐘を鳴らす動きも出てきた。

 2008年大統領選でオバマ当選の立役者となったデービッド・プルーフ元選対本部長は3月27日、ヤフー・ニュースが報じたインタビューの中で、危機感をあらわにした以下のような警告を発した:

 「トランプ発言がコロナウイルス危機に乗じて連日メディアに大見出しで報じられる中で、バイデン候補は大変なチャレンジに直面している。トランプは得意のSNSを大胆に駆使することによって、“危機に立ち向かう英雄”のイメージを有権者に植え付け、とくに接戦が予想される重要州向けに今後、莫大なテレビおよびネット広告を流すことになる」

 「今回危機への初期対応の遅れに対するトランプ批判がかなり存在し、しかも今後経済不況に陥る懸念もあることは確かだが、とにかく今年の大統領選挙は大接戦になる。それだけにバイデン候補にとっては時間との戦いを余儀なくされ、一刻の猶予も許されない非常に大事な時期だ。しかし彼はこれまでのところ、デラウェアの自宅書斎から低画質のパソコン画面を通じ、コロナウイルス危機がらみのコメントを散発的に流す程度にとどまっていた」

 「しかも、危機の影響で11月本選までの選挙運動期間も短縮されることは明白であるだけに、バイデン氏は今ただちに行動に打って出るべきだ。この間、トランプ陣営は莫大な選挙資金を生かし、インターネットを駆使した効率の良い情報戦を着々と展開しつつある。民主党は集会などを中心とした伝統的選挙手法にしがみついたままだが、新しい時代にふさわしいネット戦略を重視する時がきている……」

 また、著名コラムニストのデービッド・レナード氏も27日付ニューヨーク・タイムズ紙寄稿文の中で「コロナウイルス危機下でバイデン氏は、難しい立場にあることは事実だが、現時点で彼は最も抜きん出た民主党政治家であり、今こそトランプ相手に明確な所信を述べるべきだ」として、①これまでトランプ政権がとってきた危機対応をきちんと批判し、明確な対案を示す②英国の政治的伝統にならい、野党の立場で政権を担う際の「影の内閣」構想を打ち出す③現政権に対する過剰な批判と危機に乗じた自己PRは避ける―などの助言を行った。

 こうした中で、気になるのが、トランプ大統領の支持率動向だ。

 ABCテレビとワシントン・ポスト紙が3月22から25日にかけて実施した合同世論調査結果によると、「支持」49%、「不支持」47%と、トランプ氏に対する支持率は大統領就任以来、最高となり、初めて「不支持」を上回った。コロナウイルス危機を受けてテレビ露出度が一段と増えたことが原因とされた。

 ところが、その後、他の調査機関が実施した複数の世論調査によると、再び「不支持」が「支持」を上回る結果となっている。

 例えば、政治問題のデジタル調査機関YouGovが行った最新世論調査(3月25-27日)では「不支持」56%、「支持」44%となったほか、Rasmussen調査(3月24-26日)でも、「不支持」52%、「支持」46%、などのようにトランプ大統領の危機対応に対する評価は意外なほど高まっていない事実も判明しつつある。

 ちなみに過去に国家的危機に直面した歴代大統領の支持率を見ると、9・11テロに見舞われたジョージ・W・ブッシュ氏はピーク時に30%も急上昇、また、イラン米大使館人質事件の対処に苦しめられたカーター大統領も事件発生直後には一気に25%も跳ね上がった。それにくらべ、今回未曽有の危機に直面するトランプ大統領の支持率は日によって小幅の上下変動はあるものの、メディア攻勢に乗り出した割には、大きな「成果」にはまだつながっていない。

 この間、米国内感染者数は3月27日現在、10万人を突破、死者も1000人超となったほか、すでに失業者も320万人規模に達している。

 果たしてトランプ大統領再選の見通しは今後、さらに好転していくのか、野党民主党に政権を明け渡すことになるのか、いぜんとして不透明な状況が続くことになりそうだ。

  
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