Washington Files

2020年4月1日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 「感染拡大回避のため乗員緊急退避の裁可を仰ぎたい」-米第七艦隊空母「セオドア・ルーズベルト」の艦長が31日、上官宛てに異例の直訴に及んだことが明らかになり、国防総省(ペンタゴン)全体に衝撃が走っている。

 サンフランシスコ・クロニクル紙は同日、現在グアム島に停泊中の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」艦長ブレット・クロジア大佐が上官宛てに送った直訴状(4ページ)のコピーを入手、その内容を特報として報じた。

空母セオドア・ルーズベルト(ZUMA Press/AFLO)

 それによると「これは政治的判断を擁する緊急事態であり、われわれは今、戦争状態にある。ただちに行動を起こさなければ、最も信頼を寄せる国家資産ーすなわちわが乗員たちを見くびったことになる」との書き出しで始まる直訴状は、すでに艦内に拡大しつつあるコロナウイルス感染の脅威に言及する中で「4000人超の乗員の大半を2週間にわたり本艦から退避させることは異常事態と言えるかもしれない。

 しかし、このまま若い男女乗員たちに艦上任務を続けさせることは、無用のリスクにつながり、艦長に寄せられた信頼に背くことになる」として、できるだけ速やかに、特定任務以外の大部分の乗員たちを上陸させ、ウイルス感染テストの実施や、治療措置を講じるよう求めた。

 平時において現場の指揮官が、作戦任務中の兵員たちの撤退判断を上官に直接仰ぐことは極めて異例だが、トランプ大統領自らが今回のコロナウイルス危機について繰り返し「戦争状態」としてきただけに、第七艦隊のみならず、ペンタゴンの早急な対応が求められる事態となった。

 この点について、トーマス・モドリー海軍長官代理は同日、CNNテレビとのインタビューで、「直訴の件は承知しており、海軍として『セオドア・ルーズベルト』乗員の避難対応に乗り出している」、「グアム島の米軍施設には乗員たちを入院させるだけの十分なベッドがなく、島内の観光ホテルその他の施設が利用できないかどうか、グアム政庁側と協議中だ」などとする一方、「艦長の言い分に異議を唱えることはしないが、巡洋艦などとは異なり、非常に慎重にステップを踏んで措置を講じる必要がある。すなわち、空母には大量の兵器・弾薬、作戦機が搭載され、艦上での火災発生に即対応しなければならず、それに原子炉運転も続けなければならない」として、空母対応の特殊性にも言及した。

 さらに、ジェームズ・スタブリス退役海軍大将(元NATO統合軍司令官)も、クロニクル紙とのインタビューに応じて次のように語った:

 「そもそも海軍艦船はコロナウイルスを蔓延させる理想の環境下にあるだけに、今回のようなケースがさらに増えることを覚悟しておく必要がある。ただ、だからといって、艦船を係留して簡単に乗員たちを上陸させ避難させるわけにはいかない。多くの兵器、何十億ドルもする各種装置、火災発生のリスク、それに原子炉など複雑な問題が横たわっている。それでも今ただちにやるべきことがある。それは、空母全体を消毒し、すでに感染が疑われる乗員たちを上陸させ、隔離することだ」

 今のところ、「セオドア・ルーズベルト」乗員感染者数については、海軍省筋によると「100人程度」とされているが、クロニクル紙宛てに乗員の一人が「匿名」で通報してきたところによると、すでに150~200人に達しており、今後爆発的に増える可能性があるという。

 船舶感染の際の対処をめぐっては、数千人の乗客を乗せた大型豪華客船「ダイアモンド・プリンセス」号寄港問題が日本含め各国でも大論議となった矢先だけに、今後、「セオドア・ルーズベルト」のみならず「前方展開戦略」を支柱とする他の米海軍艦船にも、コロナウイルス感染が拡大していった場合、海外基地寄港問題にも波及する恐れもある。

 しかも、「ダイアモンド・プリンセス」号の場合は、船客用個室が設けられているため、感染者を船内の一定エリア内に隔離、感染者数をある程度抑制することができたが、軍用艦船はそうした体制になっていない。

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