2024年12月23日(月)

Washington Files

2020年4月3日

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 コロナウイルス危機にからみ乗員たちの緊急避難を直訴した米第七艦隊原子力空母の艦長が2日、海軍長官によって急遽解任された。米議会ではこの措置に強く異議を唱える声が上がっており、その波紋が大きく広がりつつある。

 「本日、私の判断により、『セオドア・ルーズベルト』艦長を解任した」-トーマス・モドレー海軍長官は2日夕、国防総省(ペンタゴン)における特別会見で衝撃的措置を発表した。

空母セオドア・ルーズベルト(REUTERS/AFLO)

 同日付で解任されたのは、現在グアム・アプラ港に停泊中の同空母艦長ブレット・クロジア大佐で、大佐は先月31日、乗員約4700人が任務につく空母艦内でコロナウイルス感染者が増え始めたことを理由に、「乗員たちの生命と安全確保のため、緊急に上陸・退避させたい」と上官に直訴していた。

 そのわずか2日後に艦長解任の決定を下したことについて、モドレー長官および同席したマイケル・ギルデー海軍作戦部長は以下の理由を挙げた:

  1. クロジア大佐は乗員たちの安全確保のための最善の方策として直訴に及んだが、全く逆の効果をもたらした。
  2. すなわち、乗員たちの家族をパニック状態に陥れ、当艦の戦闘能力について敵国に情報を与える結果になった。
  3. わが国家が(コロナウイルス危機という)この時期に海軍に対し、強靭さと信頼性を求めているときだけに、即時解任は最善の措置である。
  4. わが海軍リーダーシップはほかの誰以上に乗員たちの安寧を望んでおり、彼らは今、最善のリーダッシプを必要としている。
  5. 今のところ、艦長の直訴について誰がサンフランシスコ・クロニクル紙にリークしたかは不明だが、直訴コピーが20~30人に出回ったこと自体、艦長の注意が足りなかったことを意味する。
  6. コロナウイルス感染によって生じたさまざまな不穏な感情を理由として現下の空母作戦能力状況を世界に広げることは、わが国の戦闘態勢が不備だという誤ったメッセージを敵国に伝えることになる。

 クロジア大佐は上官宛て直訴状(4ページ)の中で、「このまま乗員たちが艦内にとどまって任務を続けることは、感染者の隔離もできず、大規模感染になる恐れがある」「全乗員のうち緊要な任務にある10%以外は全員退避の許可をお願いしたい」などと訴えていた。

 この直訴が暴露されて以来、海軍当局者によると、検査の結果、114人の乗員に「陽性」が出ており、すでにグアム島内のホテルに収容された。また、全乗員2800人近くのうち2700人に対し3日までに上陸・退避の措置をとったという。

 一方、ペンタゴンが急遽、当該艦長解任の挙に出たことについて、米議会では強い反発の声が上がっている。

 とくにアダム・スミス下院軍事委員会委員長は同日「クロジア艦長が直訴したことは、通常の軍指揮系統からはみ出したことは事実だが、即解任措置によって、任務に就いている兵員たちにより大きなリスクをもたらし、第七艦隊の戦闘態勢を阻害させることになる」として、さらに緊急声明の中で次にように指摘した:

 「十分な内部調査もせず、いかなり艦長をほおりだすことは、『セオドア・ルーズベルト』艦上で増大しつつあるクライシスを解決することにはならない。さらにわれわれが憂慮するのは、突然の解任がもたらす身震いさせる効果chilling effectが、国防総省全体の司令官たちに及ぼすことだ。コロナウイルス・パンデミックはわれわれに新たな挑戦を突き付けており、その実態はまだ十分に理解されていない。クロジア艦長がとてつもない重圧を適正に処理しなかったことは確かだとしても、乗員たちの健康と安全を最優先にしたものであり、指揮任務を直ちに解いたことは、過剰反応というべきだ」

 なお、ギルデー作戦部長によると、同空母は大量の各種兵器・弾薬を搭載しているほか、原子炉など取り扱いに神経を使うさまざま装置を備えているため、乗員の大半を早急に退避させる一方、「最低1000人の要員」はそのまま艦内にとどまることになるという。

 しかし、クロジア艦長の後任任官はまだ、発表されておらず、また、ウイルス感染拡大という極めて危険なタイミングであるだけに、ただちに適任者を送り込めるかどうかも微妙な問題だ。艦長を失った「セオドア・ルーズベルト」の残り乗員たちは、当分の間は軍港に係留状態のまま不安な日々を過ごすことになる。   

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る