Washington Files

2020年5月18日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 支持率低迷を続けるトランプ大統領と決別し、11月大統領選での「再選阻止」を呼び掛ける動きが共和党ベテランOBたちの間で活発化している。早々とバイデン民主党候補への「投票意思」を表明した有力者も少なくない。

 「われわれはかつて民主党候補を支持したことはなかった。だが、今回こそ、トランプを敗北させるべきだ」-共和党正統派を自認する有力論客たちが最近、こんな見出しで始まる共同声明文をワシントン・ポスト紙に寄稿、さらにその後も追い打ちをかけるようにコロナウイルス危機以来の大統領執政を批判したスポット広告を流したことからトランプ大統領が激怒、自らのツイートで4回続けて反撃するなど、大きな話題となっている。

(rarrarorro/gettyimages)

 寄稿したのはトランプ大統領上級顧問ケラヤン・コンウェー女史の夫で著名弁護士のジョージ・コンウェー、ジョン・マケイン元大統領候補選挙参謀だったスティーブ・シュミット、政治戦略家でメディア・コンサルタントのリック・ウイルソン、ジョージ・W・ブッシュ大統領元顧問のリード・ギャレン、ジョン・ケイシック元大統領候補の選対本部長を務めたジョン・ウィーバーの5人。いずれも同盟関係強化、自由貿易推進など共和党の伝統路線から逸脱したトランプ政権に異議を唱える政治組織「リンカーン・プロジェクト」の主要メンバーとして知られる。

 コンウェー氏らは去る4月16日、掲載された寄稿文の中で次のように指摘した:

 「米国民は今年11月、1864年リンカーン大統領再選の時以来、最も重大な票を投じることになる。すなわち、過去100年に経験したこともなかった公衆衛生非常事態、大恐慌に匹敵する経済倒壊、そしてアメリカ・リーダーシップ欠如と空白に由来するさまざまな危険に直面した中での大統領選挙となるからだ」

 「米国は、大統領職の重責を担う何の準備もなしに就任し、指導力の負の実績、知性、道徳性の欠如を露見させたトランプ大統領に悩まされ続けており、われわれは彼の再選の道を断つ目的で『リンカ-ン・プロジェクト』を立ち上げた。そして、この困難な時期に際し、わが党よりわが国家を最優先させる選択を下した。それがジョー・バイデン民主党候補への支持表明であり、彼もわれわれ同様に国家を最優先させるものと確信している」

 「トランプは過去3年、政治をTVショー化し、国民の福祉・安寧より自らのエゴと視聴率を常に優先させてきた。腐敗と教祖的アマチュアリズムに彩られた執政の結果、国を分断させ漂流させてきた。しかも、今や『生か死か』の深刻な危機に直面している時だけに、彼にさらにあと4年大統領をやらせることは断じてできない」

 「これに対し、バイデン氏ははるかに卓越した指導者であり、豊富な政治経験の持ち主だ。大統領としての準備期間を必要とせず、来年1月20日の就任式の瞬間からただちに仕事を開始することができる。自らの能力を吹聴することなく、不完全な存在であることを認めた上で、国の繁栄と安寧のために善意と意欲を最大限活用していける人物である。バイデン大統領はわが分断国家の傷を治癒し、船長として安定した航路へと乗り出していくことを確信している」

 「リンカーン・プロジェクト」はさらに今月4日、大統領が最も信頼を寄せる保守系ケーブル・テレビ「フォックス・ニュース」での60秒スポット広告を通じ、(南北戦争の)国難に直面したリンカーン大統領と、今回のコロナ危機で指導力欠如が指摘されるトランプ大統領との違いを対比させたナレーションを首都圏の視聴者向けにアピールした。

 これを受け、トランプ大統領は翌日未明から自分のツイッターで、立て続けにコンウェー氏やシュミット氏らの個人名を挙げ「気違いじみている」「負け犬連中」「リンカーンに失礼」「過去の選挙戦の失敗者」などと酷評し続けた。大統領の怒りはそれでも収まらず、10時間後、地方遊説に向かうワシントン近郊アンドリュース空軍基地でも報道陣を前に2分近く同グループ批判を繰り返した。

 11月の投票日を控え、共和党内部からの造反の動きが拡大することに大統領がいかにいら立ちを深めているかを示したエピソードといえる。

 しかも、CNNテレビによると、同グループの下には、スポット広告放映後、わずか1日半の間に、「トランプ再選阻止」の運動に共鳴する各地の有志たちから140万ドルもの政治献金申し出があったほか、大統領選で接戦が予想されるウイスコンシン、オハイオ、フロリダ各州視聴者向けにも、近日中に同内容の広告が放映される予定だという。

 さらにトランプ陣営にとって厄介なのは、「トランプ再選阻止」の呼びかけ運動が「リンカーン・プロジェクト」のみならず、他のさまざまな共和党グループの間でも少しずつ広がり始めている点だ。こうした人たちの集団は総称して「ネバー・トランパーズ Never Trumpers」と呼ばれる。

 その中には、いずれも共和党員でかつて、レーガン・ホワイトハウスで「機会平等」局長を務め、ジョージ・ブッシュ政権下で労働長官にも指名(本人辞退)されたことのある著名テレビ解説者リンダ・チャベス女史、クラウディン・シュナイダー元下院議員(ロードアイランド州選出)、ジョージ・ブッシュ政権下で環境長官を務めたクリスティン・ホイットマン女史、レイ・ラフード元下院議員(イリノイ州選出)らが含まれており、一様に「バイデン支持」を公言している人たちばかりだ。

 このほか最近とくに、トランプ大統領批判を強めている大物共和党員の一人に、2009年から11年まで共和党全国委員会(RNC)委員長の要職にあったマイケル・スティール氏がいる。

 スティール氏は2016年大統領選でも、「トランプ候補指名」を公然と拒否したことでも知られるが、去る4月21日放送されたワシントン・ポスト紙ポドキャスト番組にも出演し、以下のように痛烈にトランプ再選阻止を聴衆に呼びかけた:

 「ジョージ・ワシントン初代大統領以来、第44代オバマ大統領に至るまで、民主、共和を問わず、それぞれ毀誉褒貶があったが、一つだけ共通点があった。それは、推進する政策のいかんにかかわらず、つねに自己利益より国益を最優先させてきたという事実だ。

 この点トランプはホワイトハウス入りしてからもニューヨークの自分の不動産ビジネスのことを常に考え、コロナウイルス危機に直面してからも、真剣な対応はそっちのけで、11月大統領選勝利のための策略をめぐらしている。ウイルス感染死亡者が国内だけで8万人を突破し、さらに増え続けているにもかかわらず、経済再開のことしか頭にない……こんな大統領にあと4年任せることはもはや有権者が許さないだろう。選択肢はわが党ではなく民主党候補しかいないことは明白だ」

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