「負け犬となったトランプ」
アメリカがコロナ危機に見舞われて以来の、大統領選への影響をめぐっては、このほかトランプ氏の傾勢がより一段と不利になりつつあることを示す報道が最近いくつか目立っている。
そのひとつは、ロサンゼルス・タイムズ紙ワシントン支局長でベテラン・ジャーナリストのデービッド・ラウター氏による「負け犬となったトランプ」と題する分析記事(5月22日付)だ。
ラウター氏は、
- 政治サイトReal Clear Politicsが今年初め以来実施してきた「トランプ vs. バイデン」支持調査で、2月中旬時の1回を例外として60回のすべてで「バイデン優勢」が続いている
- フォックス・ニュースによる過去13回の世論調査結果でも昨年5月調査以外、すべてでバイデンがリードしてきた
- Real Clear Politics最新調査では、前回大統領選でトランプ候補が勝利したフロリダ、ウイスコンシン、アリゾナ、ミシガン、ペンシルバニア各州でもバイデンが有利に立っている
などの具体例を挙げた上で、「2020年選挙は2016年選挙の再来とはならない。なぜなら、前回、トランプ候補は、選挙自体をヒラリー・クリントン候補に対する“国民投票”に仕立て上げることに成功したが、今回は自分自身に対する信頼性を問うレファレンダムとなっており、厄介な問題に直面している。
さらにカリフォルニア州立大学UCLAなどによる8万5000人有権者を対象とした大規模合同調査によると、前回大統領選でトランプ支持だった投票者のうち今回は実に9%が『バイデン支持』に鞍替えしていることなども合わせ、トランプが現時点で負け犬となっていることだけは明白だ」と論じている。
また、ワシントン・ポスト紙のジェニファー・ルービン客員論説委員はさる5月6日付のコラムで、
- 前回選挙ではトランプ候補が9%差で勝利したテキサス州で今回デッドヒートとなっている
- 前回4%差で勝利したノースカロライナ州でバイデン候補に7%差でリードされている
- 前回20%差で圧勝したモンタナ州でも今回はバイデン候補にわずか5%差にまで詰め寄られている
などを論拠に「コロナウイルスは当初の大都市から今や、トランプ氏が勝利を当然視してきた地方の小都市、閑村地帯にじわじわと広がり始めており、政府による早期経済再開の呼びかけに対しては、63%の有権者が懸念を抱いている。政権へのダメージはもはや否定しようもなく、今後、彼がどんなにもがいても、彼自身および大統領の下にはせ参じた共和党議員たちを救い出すことにはならないだろう」と結論付けている。
このほか、5月26日付の有力誌「Vanity Fair」電子版は、事情通の共和党関係者の話として、トランプ氏は最近になって、複数回にわたる大統領選情勢分析の結果、大統領が極めて不利な状況にあるとの報告が側近たちからあいついでいることにいら立ちを見せ始め、周辺に当たり散らしたりすることも多くなっている、と報じている。
とくに大統領は、接戦が予想される(勝敗のカギとなる)6州の50歳以上の婦人層の間でバイデン候補に二けたものリードを許しているとの最新内部報告を受け、「コロナウイルス騒ぎが起こる前までは、自分は再選に向けて順調に歩を進めていたのに、これではアンフェアだ」「わが情報機関はコロナ襲来をもっと早く予告すべきだった。彼らは自分を貶めようとしている」などといった愚痴を乱発しているという。
同誌はさらに、ホワイトハウスが劣勢を強いられている局面打開の一策として、5月26日までに選挙体制そのものの見直しに着手、新たにビル・ステピーン氏を選対副本部長に、さらにステファニー・アレクサンダー女史を新設の「参謀長chief of staff」に据えたことにも言及、「これらの動きは事実上、大統領自身が不満を漏らし始めているブラッド・パーズケール選対本部長の降格を意味している」とも報じた。
ただ、ここに来てトランプ氏にとって悲観材料が多くなりつつあるとはいえ、選挙はまさに「水もの」であり、勝敗は最後の最後まで予断を許さない。
とくに投票日までまだまる5カ月もあり、この先両陣営にとって何が起こるか、不確定要因がいくつも存在する。
今後の本格的選挙戦を通じ、バイデン候補が思わぬ失言、失態を繰り返し、支持率を落とす一方、コロナウイルス感染終息後の経済回復が予想以上のペースで進み、逆にトランプ評価と期待が急速に高まる可能性も十分ありうる。
冒頭で引用した「Oxford Economics」も、過去4カ月程度のデータを下に導き出した「予測モデル」であり、レポートの中で「大統領が今後、経済をスピーディーに立て直し、その上で、民主党支持者間の投票率が通常以上に低調に終わった場合は、辛うじて勝利につなげられるシナリオもありうる」と断っているのもそのためだ。
確かことは、2020年米大統領選は前回以上にはるかにエキサイティングなものになるということだろう。
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