2024年12月23日(月)

Washington Files

2020年6月15日

13日、ニューヨーク州ウエストポイントの陸軍士官学校卒業式に出席したトランプ大統領(REUTERS/AFLO)

エスパー国防長官の異議

 全米抗議デモの暴動化に備え連邦軍投入を命じたトランプ大統領にエスパー国防長官が異議を唱えたことから、ホワイトハウス内でやり玉に上がり、苦しい立場に追い込まれている。憤慨した大統領も、一時は即刻解任に傾いたと伝えられ、その余震が続いている。

 大統領を怒らせるきっかけとなったのは、去る3日、エスパー国防長官がペンタゴンで行った定例会見での以下のような発言だった:

 「法秩序維持を目的とした軍隊投入は最後の手段であるべきであり、最も切迫した深刻な状況下においてのみ検討されるべきだ。われわれは目下のところ、そのような状態には直面していない……私自身、(非常時に軍隊投入を認めた)「1807年反乱法」の発動も支持しない」

 これは明らかに、大統領が1日、ホワイトハウス・ローズガーデンで行った次のような「法と秩序」を前面に掲げた演説に正面から冷水を浴びせるものだった:

 「今、各地で起こっていることは、平和抗議集会ではなく、国内テロであり、秩序破壊行為だ。私は国民の『法と秩序大統領』だ。各市長、各州知事には、市街の治安回復と市民保護のために州兵力を動員するよう指示したが、彼らが事態収拾をためらうのであれば、自分が暴力と無秩序をただちに終わらせるために、民間、軍のあらゆる資源を投入する用意がある。わが国にはそのための素晴らしい法律(1807年反乱法)がある」

 大統領見解に異を唱えたこの長官発言は即日、ホワイトハウス記者団の間でも大きな話題となった。大統領の反応を求められたマケナニー大統領報道官は、「現段階ではエスパー長官はいぜん長官だ。もし、大統領がエスパー長官への信頼をなくしたとしたら、間違いなく、あなたたち(記者団)が最初に知ることになるだろう」とだけ慎重にコメント、今後の処遇に含みを持たせた。

 しかし、CNNテレビは翌4日、エスパー長官発言に対するホワイトハウス内での反応について

  1. エスパー長官は就任以来もともと、大統領側近たちの間ではポンペオ国務長官と比べ存在感が薄く、今回の発言でさらにホワイトハウスとの基盤を揺るがせることになった。
  2. 事前に何の(問題発言の)予告もホワイトハウスにはなく、しかもペンタゴン記者団の前で公然と異なる見解を述べたことを大統領は好ましく思っていない。
  3. 大統領およびオブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)は以前から、エスパー長官が大統領の軍事戦略ビジョンと相異なる姿勢をみせてきたことに不満を抱いてきたことから、11月大統領選を待たず、退任させるオプションも否定できない

 などと伝えた。続いてウォールストリート・ジャーナル紙は9日付電子版で、「大統領はペンタゴンでのエスパー発言に激怒、その日のうちに解任に動いた。しかし、『国防長官の交代は大統領就任以来、4人目となり大統領選にダメージになる』との側近たちや共和党幹部の慰留を受け、いったん翻意した」と報じた。しかし、同党保守派議員の一部からはなお、解任すべきとの強硬意見が出されているという。

軍出身者の閣僚としても一人浮かび上がった存在

 もともとエスパー長官があえてこのような大統領演説を否定するかのような発言をした背景には、ローズガーデンでの大統領演説終了直後、制服組トップのミレー統合参謀本部議長、バー司法長官らとともに大統領に付き従い、徒歩でホワイトハウス前のペンシルバニア通りにある歴史的宗教施設でもある「聖ヨハネ・エピスコパル教会」までの“暴動鎮圧ショー”に加担したため、本来、政治的中立を保つべき米軍指導者としての資質を多くの軍元幹部から酷評されたことがあった。(本欄6月8日付拙稿「集中砲火浴びたトランプ演出『暴動鎮圧ショー』の顛末」参照)

 とくに、陸軍士官学校卒のエリート軍歴を持つエスパー氏は、かつて内外で幅広い人望を持つジム・マチス国防長官(2017-2019)配下で陸軍長官を務めたこともあっただけに、13歳も年長の大先輩で海兵隊大将でもあったマチス氏から有力誌「アトランティック」寄稿文の中で手厳しい叱責を受けたことで、自ら取った軍人あるまじき行動を水に流し、名誉挽回を意図したものと受け取られている。

 しかも、同じ海兵隊大将を務め、昨年1月まで大統領首席補佐官の要職にあったジョン・ケリー将軍までマチス元長官と同様の見解を示し、トランプ大統領、エスパー長官らの威圧的行動を厳しく批判したことから、軍出身者の閣僚としても一人浮かび上がった存在となっていた。


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