Washington Files

2020年7月15日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 マスク着用を一人頑固に拒み続けてきたトランプ大統領が11日、ついに初めて公の場にマスク姿を見せた。全米で再び猛威を振るい始めた新型コロナウイルスの前に完全にシャッポを脱いだ形だ。

(AP/AFLO)

 大統領は11日、海外で負傷した米兵たちやコロナウイルス患者を慰問のため、ワシントン近郊にあるウォルター・リード米軍医療センターを訪問、病室への出入りの際に、初めて大統領紋章入りの濃紺マスク姿で廊下を歩いた。その様子はTVカメラでとらえられ、初めて全米で大きく報じられた。

 トランプ氏は、今年2月、新型コロナウイルスが全米に感染し始めて以来、医療関係者の警告も無視、「自分は安全だ」として頑固にマスク着用を拒否続けてきた。(7月6日付拙稿「『たかがマスク、されどマスク』トランプ氏を悩まし続ける‟難題“」参照)

 しかし、感染はいったん、拡大にブレーキがかかり始めたかに見えたが、その後再び全米で猛威を振り始め、去る10日には、1日だけの感染者6万7000人と過去最多を記録、累計感染者数も310万人と最悪事態となった。

 この間、とくに共和党地盤である南部諸州においては、大統領同様に、マスク着用拒否傾向が目立ち、ジョージア州のジミー・カーター元大統領夫妻、共和党有力議員の間からも、さらなる感染拡大を懸念する声が高まりつつあった。そして、これまで感染者の少なかったルイジアナ州のジョン・エドワーズ州知事までがついに11日、感染拡大を理由に全州民にマスク着用命令を出したほか、テキサス、アリゾナ、ジョージア、フロリダ各州でも深刻化しつつある事態を受け、同様措置を命令または勧告する騒ぎとなってきた。

 このため最近になって、ホワイトハウス関係者も含め、一斉に大統領に対し、「今や公衆衛生上の最低のマナー」だとして、早急にマスクを自ら着用し、全米の多くの支持者たちのためにも範を示すよう求める声が高まっていた。過去同様に、大統領が公の場でマスク姿を見せたことがないことを口実に、多くのトランプ支持者が着用を拒否し続け、南部諸州の状況がさらに悪化することを恐れたからにほかならない。

マスク着用は素晴らしいことだ

 そして「公衆の場で自分のマスク姿をさらしたくない」と意地を張ってきた大統領も、ようやく「6フィート以上の間隔の取れない場所など、着用が必要な環境の下では着けることもやぶさかではない。要は、時と場所次第だ」と記者団に語り、態度を軟化させつつあった。

 今回、大統領が慰問に訪れることになったウォルター・リード病院では、来訪者に対し「6フィートのソーシャル・ディスタンスが取れないときは、全員がマスク着用」が義務付けられており、それに従う形で大統領として初めて、TVカメラの前でマスク姿を見せることとなったが、大統領は病院に向かう途中から、報道陣に対し「マスク着用は素晴らしいことだ。自分はそれに異議を唱えたことはない。今日は着用することになる」と予防線を張っていた。

 世間の批判にさらされ続きだった大統領としては、このタイミングに同病院訪問に踏み切ることで、これまでつきまとってきた悩ましい“マスク問題”を一件落着とさせるねらいがあったものとみられる。

 ホワイトハウス関係者の間には、大統領がようやくマスクを着用したことで、これまでこの問題めぐりたびたび降りかかっていた火の粉を当面払いのけられたとして、安どの空気も流れていると伝えられる。

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