Washington Files

2020年7月27日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 11月米大統領選でますます劣勢に立たされつつあるトランプ政権は、ここに来て「2016年逆転劇」に最後の望みを託している。だが、実は局面は今回、4年前と大きく異なっていることに留意する必要がある。

(UPI/AFLO)

 前回選挙でトランプ氏は、直前までの多くの世論調査結果や予想を覆し、僅差ながら勝利をものした。

 勝因として以下の点が挙げられている:

  1. アウトサイダーとして既成体制にチャレンジし、その新鮮さで多くの支持を得た
  2. 対立候補のヒラリー・クリントン氏がEメール・スキャンダルなどで苦しめられた
  3. 無党派層の多くがトランプ支持に回った
  4. 中西部ラストベルト(錆びついた工業地帯)の民主党労働者層が寝返った
  5. 各種世論調査が投票日直前まで‟隠れトランプ支持者“の存在を見落とした
  6. ロシアによる選挙介入で有権者のクリントン不信が高まった

 そこで2020年選挙の勝敗を占うカギは、上記のようなトランプ陣営にとって有利だった状況が再び期待できるかどうかにかかっている。

 だが、残念ながら、以下に順を追って述べる通り、大統領選挙をめぐる最近の景色は、4年から様変わりつつある:

  1. トランプ氏は前回選挙では、共和党から立候補したにもかかわらず、ワシントン政治にドップリ浸かった共和党主流に反旗を翻す“異端児”として全米で注目を集め、とくに中西部の白人低所得者層の愛国心をかきたてることに成功した。
    しかし、今回は“アウトサイダー”という挑戦者ではなく、大統領として過去3年半以上の自らの施政実績が厳しく問われることになった。それだけ新鮮味を失った。
  2. 4年前、クリントン候補は自身のEメール問題ダルめぐり一時は支持率を落としたものの、投票日1カ月前までにはスキャンダルも下火となり、優位に立っていた。しかし、11月投票日直前にコミーFBI長官が「事件再捜査」を発表、全米マスコミで大きく取り上げられたことで、一挙に傾勢が逆転したといわれる。
    ところが今回、バイデン候補にこれといったボデーブローとなるスキャンダルも見つからず、トランプ陣営として反転攻勢の決定打がなく苦しい状況下にある。
  3. 全有権者の28%近くを占めた「無党派層」のうち、前回選挙では「トランプ支持」(43%)が「クリントン支持」(42%)を僅差ながら上回り、勝利に大きく貢献した。しかし、今回は傾勢は大きく逆転、最新の世論調査では「無党派層」の65%近くが「トランプ不支持」を表明している。さらに、MSNBC報道によると、民主、共和両陣営の選挙資金集めに重要な役割を担う「無党派億万長者」を対象とした調査では、「バイデン支持」が51%に対し、「トランプ支持」はわずか33%にとどまっており、全体としてバイデン候補が大きくリードを保っている。
  4. 前回選挙においては、勝敗を決定づけた民主党地盤の“ラストベルト3州”であるウイスコンシン州でトランプ46.5%対クリントン42.2%、ミシガン州でトランプ47.3%対クリントン47%、ペンシルバニア州でトランプ48.2%対クリントン47.5%と、いずれも終盤のわずかの得票数差でトランプ氏が勝利した。
    しかし、今回最新のCNBC調査によると、ウイスコンシン州でバイデン45%対トランプ36%、ミシガン州でバイデン48%対トランプ42%、ペンシルバニア州でバイデン50%対トランプ42%と、逆に3州とも民主党が勢力を盛り返しつつある。
  5. 各種世論調査が前回選挙で最終段階まで予想を誤った原因として、投票総数の1~2%を占めた“隠れトランプ支持者”の存在を視野に入れなかったことが挙げられている。今回も同様に、世論調査がこれらのトランプ支持者を見落としている可能性が十分ある。
    しかし、最近の各支持率調査を見る限り、バイデン氏はトランプ氏に8~10%の差で大きくリードしており、このまま大きな変化がなく11月3日の投票日を迎えた場合、“隠れトランプ支持票”を割り引いたとしても、バイデン氏優位は変わらないことになる。事実、前回選挙で勝敗の分かれ目となった上記“ラストベルト3州”の票差を見ると、トランプ氏はウイスコンシン州で2万1000票差、ミシガン州で1万600票差、ペンシルバニア州で4万4000票差という、投票総数の1%にも満たない微々たるものだった。
  6. 2016年大統領選挙にロシアが深く関与したことは、アメリカのあらゆる情報機関による徹底捜査の結果、すでに否定し難い事実となっている。それが具体的にどの程度、米国有権者の投票動向に影響を与えたかについては、評価しようもなく、確たるデータも存在しない。しかし、ロシア側がとくに選挙戦終盤になって、クリントン候補に関するさまざまな情報操作や、フェイスブックなどのSNSを駆使した非難・中傷を目的としたフェイク・ニュースを拡散させたことは、周知の事実となっている。このため、米国の一部の識者の間では、「プーチンがトランプ大統領を誕生させた」とする指摘も見られた。

 米国各情報機関は、ロシアが2020年大統領選においても再び関与の動きをみせているとして、警戒を強めている。

 ただ、前回の苦い経験から、FBIなど捜査機関の監視体制は一段と強化されつつあるだけでなく、ツイッター、フェイスブックはじめ主要SNS各社経営者たちが、今回は汚名挽回のため、外国機関による干渉排除の対策に力を入れ始めているため、外国機関の関与が選挙結果に及ぼす影響は前回と比べ限定的とみられている。言い換えればそれだけ、トランプ再選委員会にとって不利になる。

関連記事

新着記事

»もっと見る