WEDGE REPORT

2019年10月24日

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川瀬剛志 (かわせ・つよし)

上智大学法学部教授

上智大学法学部教授。専門は国際経済法。慶應義塾大学法学部卒業、ジョージタウン大学法科大学院修士。経済産業研究所ファカルティ・フェローも務める。著書に『WTO紛争解決手続における履行制度』『地球温暖化対策と国際貿易-排出量取引と国境調整措置をめぐる経済学・法学的分析-』(ともに共編著)。

 ここのところ、WTO紛争に関する報道や政府発表が、日韓が関係するとどうも歪む気がしてならない。現下の険悪な両国関係の下ではそれも致し方ないのかもしれないが、2019年4月の福島県産水産物をめぐる日韓紛争の上級委員会判断について、政府が(おそらく意図的に)不正確な結果を公表した際は(朝日新聞2019年4月23日朝刊)、驚きを禁じ得なかった。対韓国輸出管理見直しについても、WTO訴訟の展望について一部マスコミではいささか信じがたい楽観論が展開されている。

(seolbin / gettyimages)

 そして、9月11日、韓国・空気圧バルブダンピング防止税事件のWTO上級委員会報告が公表され、また不思議なことが起きた。まず、当日の日本の新聞の見出しを見てみよう。

「WTO最終審、韓国に勝訴、日本製バルブ関税巡り」(日本経済新聞)

「韓国関税、WTOで日本勝訴、反ダンピング課税巡り 上級委」(朝日新聞)

 この点をより詳しく、世耕弘成経産相(当時)のコメントで確認したい。

「WTO上級委員会は、韓国による日本製空気圧バルブへのアンチダンピング課税をWTO不整合と判断。是正措置を求めました。日本側勝訴。

韓国製品と競合のない、高性能日本製バルブに恣意的にAD課税をした韓国の不当さが認められました。

韓国が誠実に是正を行わない場合、日本は対抗措置を取ることが可能。」

(世耕氏のツイッター、@SekoHiroshige、2019年9月11日より)

 これに対して韓国ではこう報じられている。

「日本製バルブ関税巡る通商紛争 韓国が大部分勝訴=WTO最終審」(聯合ニュース)

「韓国、日本と空気圧バルブWTO紛争の大部分で勝訴」(中央日報日本語版)

 これも韓国の担当閣僚である兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長のコメントでもう少し詳しく見てみよう。

「紛争の結果が出てから互いに勝訴を主張することは国際的によくあるが、今回の件で日本が勝訴を主張していることはやりすぎだと思う。日本が提起した13件の争点のうち10件については韓国が確実に勝った。2件は手続き面の事案だ。1件だけ適切に調整すればいいが、これをもって韓国の敗訴だというのは我田引水だ。」(聯合ニュース2019年9月11日より)

 読者の皆さんはこれらを読んでどう思われるだろうか。同じ判決を巡って同じ日に日韓両国が勝利宣言をしており、まるでパラレルワールドに迷い込んだかのようだ。これは一体どういうことなのだろうか。どちらかの政府が嘘をついているのだろうか。

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