技術覇権を通じた
制度覇権の確立
そして「科学技術の革新」という指導部の生き残り戦略は、もう一つの重要な戦略の一端を担っている。16年に策定した第13次五カ年計画は、「制度性話語権」という概念を提起し、「国家が従うべき規範やルールのセットとしての国際レジームをつくる力」すなわち制度覇権(国際政治学の概念でいうところの「構造的パワー」)を強化する方針を明確に示していた(本誌20年10月号「中国覇権への躓き」参照)。
指導部は、超大国である米国の覇権を支えているパワーが「構造的パワー」であると学習し、自国の良好な経済発展を維持しつづけるため、中国も同様のパワーの獲得が必要と考えてきた。以来指導部は、世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった既存の制度での議題設定権や決議権の強化を追求し、一帯一路やアジアインフラ投資銀行(AIIB)など中国主導の新しい制度の活性化を進め、深海底やサイバー、極地、宇宙といった新しい領域における制度構築を先導してきた。
「提案」が「科学技術の革新」の必要性を訴えるのは、そうした「構造的パワー」の強化に向けた取り組みと密接に関連している。「第14次五カ年計画と2035年長期目標」は、「第13次五カ年計画」が示した戦略が実装の局面に入ったものといって良い。
こうした科学技術の革新を通じた構造的パワーを強化するための取り組みは、人々の充実感、幸福感、安全感を満たす「質の高い社会」の追求とも連動していよう。大国としての意識を強める中国社会が期待する「中華民族の偉大な復興」という目標を技術覇権の追求をつうじて実現するのである。
こうして中国は「体制の生き残り」戦略の一環として、全力を投入し科学技術強国づくりを掲げ、実現に邁進する。様々な高度技術に支えられたデジタルインフラ構想の段階から、世界に先駆けた実装を通じ新領域での制度構築に必要な実践知を獲
もちろん指導部が設定したこの目標の達成に成功するかどうかは未知数である。日本にとってまず重要なことは、中国が示した戦略への意図を理解することだ。早急にこうした中国の技術覇権、さらにその先にある「構造的パワー」の意図を理解し、これをめぐる競争への備えが求められている。
■取られ続ける技術や土地 日本を守る「盾」を持て
DATA 狙われる機微技術 活発化する「経済安保」めぐる動き
INTRODUCTION アメリカは本気 経済安保で求められる日本の「覚悟」
PART 1 なぜ中国は技術覇権にこだわるのか 国家戦略を読み解く
PART 2 狙われる技術大国・日本 官民一体で「営業秘密」を守れ
PART 3 日本企業の人事制度 米中対立激化で〝大転換〟が必須に
PART 4 「経済安保」と「研究の自由」 両立に向けた体制整備を急げ
COLUMN 経済安保は全体戦略の一つ 財政面からも国を守るビジョンを
PART 5 合法的〟に進む外資土地買収は想像以上 もっと危機感を持て
PART 6 激変した欧州の「中国観」 日本は独・欧州ともっと手を結べ
PART 7 世界中に広がる〝親中工作〟 「イデオロギー戦争」の実態とは?
PART 8 「戦略的不可欠性」ある技術を武器に日本の存在感を高めよ
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