2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2021年1月19日

同盟国との協力を深めつつ
多国間の枠組みを主導せよ

 戦略的不可欠性を持つ技術を生かした具体的な外交・安全保障政策とはどのようなものであろうか。まず考えられるのが、日本が強みを持つ素材、部品などの技術を梃(てこ)にして、同盟国との防衛装備品の共同研究開発に参加する政策である。これを、部品などからサブシステム、システムへとレベルアップさせ、日本が主要なプレーヤーになることができれば、同盟国間における日本の存在感を高めることができる。

 このプロセスで日本の民間企業の持つ技術力を生かさねばならないが、このためにはセキュリティークリアランス制度(適格性評価)の整備は必須だ。クリアランスを受けていない民間企業の技術者は、機微な情報を扱う国際プロジェクトには参加できないため、民間の技術力を生かす経済安全保障政策を進めるためには、この種の制度を整備する必要がある。

 また、今後は、同盟国の間で、防衛分野のサプライチェーンの構築が必要になると考えられるが、ここにも日本が果たせる役割がある。米中の覇権争いが長期化する場合は、防衛サプライチェーンの効率性が問われることになる。日本が競争力を持つ材料、部品、工作機械、さらには修理や保守技術をこの中に組み込めば、低コストで高品質なサプライチェーン作りに日本は貢献できる。

安全保障、防衛、軍事……
根強い警戒感解くための議論を

 一方、米中覇権争いにおけるハイテク分野のデカップリング(分断)が、日本企業に大きな影響を与えつつある。トランプ政権は自国第一主義に基づいて、米国が一方的に規制する企業や品目を決定し、これを同盟国に押し付けてきたため、日本の対中国ビジネスに打撃を与えている。

 同盟国間の協力を重視するバイデン政権の誕生を機に、輸出管理やデカップリング問題を同盟国や有志国の間で議論できる多国間の場へと移行させるべきである。自国第一主義のままでデカップリングが進行すると、半導体製造装置や工作機械などまでもが規制対象に入り、日中のハイテク取引が分断される可能性すらある。中国が20年12月に輸出管理の強化に乗り出したため、このリスクはさらに高まっている。こうした事態を防ぐためにも、新たな多国間の枠組みを構築してそこに日本の国益を反映できるようにし、戦略的不可欠性を持つ技術を守るとともに、積極的に生かせる道を探らねばならない。

 日本国民の間では、いまだに安全保障や防衛、軍事などの言葉には根強い警戒感がある。米中覇権競争の現実を踏まえると、出口の見えない軍事イデオロギー論争を行っている余裕は今の日本にはない。米国と中国、そして経済と安全保障の両者を視野に入れた政策、特に技術面からは技術の自由な流れと技術移転や管理をバランスさせた政策を早急に実施に移さねばならない。

 このような高度な専門性と冷静な判断が求められる政策なしには、もはや国際社会における日本の立場や存在感を守ることはできない。このためにも、日本の戦略的不可欠性を確立し、国や社会の未来を守る議論を加速させなければならない。

Wedge1月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■取られ続ける技術や土地  日本を守る「盾」を持て
DATA            狙われる機微技術 活発化する「経済安保」めぐる動き        
INTRODUCTION アメリカは本気 経済安保で求められる日本の「覚悟」
PART 1         なぜ中国は技術覇権にこだわるのか 国家戦略を読み解く  
PART 2         狙われる技術大国・日本 官民一体で「営業秘密」を守れ     
PART 3         日本企業の人事制度 米中対立激化で〝大転換〟が必須に 
PART 4     「経済安保」と「研究の自由」 両立に向けた体制整備を急げ   
COLUMN       経済安保は全体戦略の一つ 財政面からも国を守るビジョンを   
PART 5         合法的〟に進む外資土地買収は想像以上 もっと危機感を持て   
PART 6         激変した欧州の「中国観」 日本は独・欧州ともっと手を結べ 
PART 7         世界中に広がる〝親中工作〟 「イデオロギー戦争」の実態とは?
PART 8       「戦略的不可欠性」ある技術を武器に日本の存在感を高めよ         

  
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◆Wedge2021年1月号より

 

 

 

 

 

 

 

 


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