2022年12月6日(火)

デジタル時代の経営・安全保障学

2022年4月16日

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大澤 淳 (おおさわ・じゅん)

中曽根康弘世界平和研究所 主任研究員

慶應義塾大学法学部卒、同大学院修士課程修了。外務省外交政策調査員、米ブルッキングス研究所客員研究員、内閣官房国家安全保障局参事官補佐、同局シニアフェローなどを経て現職。鹿島平和研究所理事を兼務。専門は国際政治学(戦略評価、サイバー安全保障)。

 21年1月、米国のシンクタンク「アトランティック・カウンシル」は、ジョージ・ケナンが冷戦期に書いた「長文電報」の現代版を意図したと思われる論文を掲載した。「The Longer Telegram」と題されたその論文は、元米国政府高官が匿名で書いたもので、覇権を狙う中国の長期戦略に対抗するため、米国が同盟国と協力して新たな中国戦略を実行に移すことを求めたものであった。

 中国経済は、2030年頃に米国経済を追い抜き世界一となり、人口減少により経済減速する中国経済を米国経済が再び追い抜く50年頃まで発展し続けると予測されている。そのため、少なくとも今後30年間は、中国型社会主義とデジタル監視社会を併せ持つ権威主義陣営と、米国を中心とする自由民主主義陣営が「体制間競争」を繰り広げることになる。これからの30年間は、冷戦時代と同様に、経済の論理よりも安全保障の論理が優先される「新冷戦」の時代となる。

今後の安全保障に必要な「経済」だけでない視点

 この「新冷戦」をどのように戦うかについて、米国で急浮上しているキーワードがある。「Integrated Deterrence(統合抑止)」という言葉である。バイデン政権が22年3月に概要を発表した新しい国防戦略で、安全保障を達成する手段として中心に据えている。従来の外交・軍事偏重の伝統的安全保障から、経済や情報などのあらゆる手段を駆使する安全保障への移行を促すものであり、生存をかけた体制間競争において、「DIME」をすべて動員して真剣勝負を行う事を意味している。

 この「DIME」とは、外交(Diplomacy)のD、情報(Information)のI、軍事(Military)のM、経済(Economy)のEを組み合わせた概念である。なじみがない言葉かもしれないが、米国の安全保障関係者は、国益を実現する戦略を「DIME」と組み合わせて考えるように教育される。

 日本では「経済安全保障」という、経済のEに注目した言葉がもてはやされているが、来る中国との「新冷戦」においては、「経済安全保障」を含むすべての政策を動員する安全保障政策が行われる、と覚悟すべきである。

 このように、経済安全保障が置かれた国際政治上の立ち位置を考えると、この細身で生まれてくる「経済安全保障推進法案」はまだまだ不十分であり、自民党の提言のような総合的な経済安全保障法制に育てていくことが、今後なにより重要となろう。

 
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