デジタル時代の経営・安全保障学

2022年4月6日

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山崎文明 (やまさき・ふみあき)

情報安全保障研究所首席研究員

明治大学サイバー研究所客員研究員。元会津大学特任教授。1978年、神戸大学海事科学部卒業。損害保険会社を経て大手外資系会計監査法人でシステム監査に長年従事。システム監査、情報セキュリティー、個人情報保護に関する専門家として、政府関連委員会委員を歴任。

 ロシアの富裕層が、ウクライナ侵攻で自由主義諸国から課された制裁を回避する動きがあるようだ。彼らは、暗号資産(仮想通貨)を使い、資産を安全な場所に移すためにアラブ首長国連邦(UAE)に殺到しているという。

(ismagilov/gettyimages)

 UAEの金融関係者は、ロシア人が資金を他の地域から引き揚げ、UAEに移すためにドバイで不動産を購入していることを認めている。こうした制裁逃れを封じるために、暗号資産取引所のCoinbaseは、不正行為に関連しているとみられる2万5000以上のロシアにリンクされたアドレスを3月7日にブロックしている。

 一方、ロシアの富裕層とは別にロシアに留まり、外国との貿易を続ける者にとっては、仮想通貨を、米ドルをはじめとする外貨に替えなければ決済ができない。そんなロシア人たちは、ビジネスが終わってしまうリスクを避けるために、あらゆる手段を取っているようである。

暗躍する中国人両替商

 窮地にあるロシア人を相手に漁夫の利をむさぼっているのが、中国人両替商である。中国の伝統的ビジネスともいえる両替商は、仮想通貨の世界でも同様だ。

 中国人が営む仮想通貨の両替は、制裁を逃れるため仮想通貨の取引所を通さず、SNSなどで連絡を取り合う相対取引が基本だ。仮想通貨取引所を通さないため、交換レートは、両替商と仮想通貨を現金にしたい売り手との間での個別の交渉によって決まる。取引の実態を把握するのは非常に困難である。

 仮想通貨の両替商が繁盛する理由の一つに、仮想通貨の世界でも規制が進んでいることがある。例えばマネーロンダリングやテロ資金の供与を防ぐために、1989年に経済協力開発機構(OECD)に設置された金融活動作業部会(FATF)では、「利用者の依頼を受けて暗号資産の送付を行う暗号資産交換業者は、送付依頼人と受取人に関する一定の事項を、送付先となる受取人側の暗号資産交換業者に通知しなければならない」との国際基準(FATF基準)を定めている。

 こうしたルールを無視して両替するのが、両替商の腕の見せ所である。両替需要を満たすために、中国人は大量の現金をロシア国内に持ち込み、仮想通貨と現金を交換しているのだ。バイデン政権は、仮想通貨を利用した経済制裁逃れを封じるために検討に入ったとウォールストリート・ジャーナルが2月25日に伝えているが、両替商に対する規制は含まれないのだ。

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