ディスインフォメーションの世紀

2022年4月5日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

日本国際問題研究所研究員

1993年生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官、未来工学研究所研究員などを経て、現職。京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教などを兼務。近著に『なぜ日本の「正しさ」は世界に伝わらないのか 日中韓熾烈なイメージ戦』(ウェッジ)。
 

 国際世論の「心を勝ち取る(winning hearts and minds)」。いま、世界でこの能力に最も長けているのは、ウクライナのゼレンスキー大統領である。

ゼレンスキー大統領は、SNSでビデオメッセージを表明するなど世界世論を味方につけている(Ukrainian Presidential Press Office/AP/アフロ)

 ゼレンスキー大統領は、ロシアによるウクライナ侵略の中にあって、各国からのウクライナ支持・支援を勝ち取るため、欧米諸国の議会において積極的に演説を行ってきた。英国、カナダ、ドイツ、米国、イスラエル、イタリアなどに続き、2022年3月23日の午後6時(日本時間)には、日本の国会でもオンライン演説を行った。

 近年、国家にとって、自らの外交政策を有利に進め上で重要となっているのが、自国世論のみならず、交渉相手国や世界の一般世論を味方につけることであり、そこで重要なのが、パブリック・ディプロマシーという外交手段である。

 パブリック・ディプロマシーとは、一般に、「外交政策の立案・実施にあたっての国民の態度に影響を与えるものであり、伝統的な外交の枠を超え、他国での世論形成や各国間のグループでの交流、外交問題の報道、政策形成やコミュニケーションなど幅広い分野にまたがるもの」とされる。

 ゼレンスキー大統領は、ロシアのウクライナ侵略を受け、世界の世論を味方につけるため極めて効果的なパブリック・ディプロマシーを展開しており、大きな成功を収めている。本稿では、ゼレンスキー大統領のパブリック・ディプロマシーの実態を詳しくていくことにしたい。

SNSとオンライン演説を活用

 ゼレンスキー大統領のパブリック・ディプロマシーの手段には、大きく分けてSNS発信とオンライン演説がある。一つ目のSNSは、かねてよりロシアが対米情報戦などで多用してきた手段であるが、今回、ウクライナではロシアの情報戦に対抗するため、SNSが極めて効果的に活用されている。

 ゼレンスキー大統領自らがSNSを用い、自撮りの動画で、ロシアは自分を「ターゲットNo.1」としてマークし殺害を企てているが、「私たちはここにいる。ウクライナを守り続ける」と、国民と共に戦う決意を訴えかけた姿は、ウクライナ国民の心を揺さぶり、国民の結束を強固にし、世界中で反プーチン・ウクライナ支持現象を作り出した。こうした現象によって、かねてよりプーチン支持発言を繰り返していた米国のトランプ前大統領やFOXニュースのキャスターであるタッカー・カールソン氏も、世界の世論の動きに圧倒される形で、初期のプーチンに対する賞賛を撤回せざるを得ない状況へと追い込まれていった。

 二つ目のオンライン演説は、「戦時下における大統領」というイメージを世界に向けて打ち出す効果があった。オンライン演説を行うことで、相手国の国民、そしてそれを視聴するウクライナ国民や世界中の人々に広く訴えかけたい狙いがあると考えられる。

 手段には、能力が伴わなければならない。ゼレンスキー大統領は、SNSとオンライン演説、いずれの手段においても、 ①聴衆が「誰」であるかを把握し、② メッセージの内容を聴衆のニーズや関心事によってカスタマイズし、③「ウクライナで起きていることは、他人事ではなく、自らの問題なのだ」と聴衆に思わせる能力を効果的に組み合わせている。特にオンライン演説では、①~③について熟考された演説を行っていることが理解できる。

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