2024年11月22日(金)

ディスインフォメーションの世紀

2023年1月18日

 カナダは、主要7カ国(G7)加盟国間の偽情報対策協力を推し進めようとする旗振り役でもあり、G7加盟国間の偽情報対策メカニズムを実効性のあるものとしようと積極的である。

 一方、これまでの日本の偽情報対策は、民間部門の自主的な取り組みが基本とされており、政府の対策はおろか、関係府省庁間の連携もとってこなかった。事実、日本では、サイバー空間の利用、サイバーセキュリティ、フェイクニュースへの対処、ネットワークインフラ防御などが個別の問題として扱われる傾向にあり、偽情報対策の方法として挙げられる市民のメディアリテラシーあるいは情報リテラシー教育、またファクトチェックも遅れている。

 ファクトチェックとは「真偽検証」を指し、政治家の発言やメディアの報道、ウェブ上で流布されている情報など、社会に重要な影響を与えうる言説を対象とし、それらが事実に基づいており、証拠や裏付けがあるかを調査し、正確な事実を人々に伝えることを目的とした取り組みを指す。数の多さや担い手の多様性で強みを持つ米国や欧州に加え、最近ではアジアでの取り組みも活発で、フィリピンや韓国などでは、選挙や大統領をめぐるさまざまな情報が流布したことをきっかけに、専門団体やメディアなどがファクトチェックを行うようになってきている。中南米やアフリカでもファクトチェックが盛んになってきている。

日本の偽情報対策の実情

 一方、日本に所在するファクトチェック団体は、世界全体の1%にも満たない。日本での数が少ない理由として、ファクトチェック自体に対する認知度が低く、意義や目的、手法が十分理解されてないことや、市民からの寄付や支援が集まりにくく、資金調達が難しいことなどが挙げられる。

 また、市民のメディアリテラシーあるいは情報リテラシー教育もほとんど進んでいない。このように日本のこれまでの偽情報対策は、国際水準に照らして、政府レベルから民間レベルまで大幅な遅れをとってきた。

 そうした日本が、偽情報対策を強化する必要性に気づき、その観点から、外国による偽情報に関する情報分析、対外発信の強化、政府外の機関との連携の強化のための新たな体制を政府内に整備する方向に舵を切ったことは、評価されるべきであり、同盟国や同志国からも歓迎されるべき流れであろう。

 外務省も、23(令和5)年度予算概算要求は新たに「情報戦を含む『新しい戦い』への対応」を重要政策の柱の一つに据え、パブリック・ディプロマシー関連事業とあわせた541億円のうち、偽情報に関するAIによる情報収集や分析、情報発信強化に5億円をあてる構えである。政府としての対策の指揮・統括役として、国家安全保障局などの果たす役割も、今後ますます重要となるだろう。

対策と統制の表裏

 他方で、政府による偽情報対策が結果として言論の自由や報道の自由を奪ってしまう場合があり、むしろ民主主義を衰退させるケースも相次いでいる。シンガポールやブラジル、ハンガリー、フィリピンなどでは、法整備を含め、政府が誤報や偽情報を取り締まろうとする動きが見られ、政府にとって都合の悪い情報や言論の統制、検閲、報道の自由に対する抑圧につながることも懸念されている。

 北米では、米国土安全保障省の偽情報対策の試みが、野党共和党や市民からの強い反発に遭い、頓挫している。また、米国務省のグローバル・エンゲージメント・センターや在外公館が海外のシンクタンクなどの偽情報関連研究に資金提供を行う場合もあるが、その内容は主にロシアの情報戦に関するものなど、結果として、対象となる研究内容に米国政府のニーズや意向が大きく反映される事態を招いている。


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