2024年11月22日(金)

デジタル時代の経営・安全保障学

2024年2月6日

 2024年1月13日、台湾で総統選挙および立法委員選挙の投開票が行われ、頼清徳・現副総統および蕭美琴・前駐米代表の正副総統候補が総統選を制し、民進党としては異例の政権3期目に突入する。他方、立法院では国民党が議席を大きく伸ばし、第一党に返り咲いた。しかし、二大政党がともに立法院の過半数を構成しない中、キャスティングボードを握ったのは、若年層の支持を得て、躍進した民衆党である。決定的な勝者も敗者もなき結果だった。

投票日前夜、新北市板橋第二運動場で開催された民進党の集会「台灣美德站出來,迎向勝利選前之夜」(2024年1月12日、筆者撮影)

 この結果は、中国にとって「最悪」ではないにせよ、「最良」でもなかった。なぜなら、中国は明らかに反頼清徳・反民進党の立場で台湾選挙に干渉したからだ。

 23年末、習近平国家主席は「祖国統一は歴史の必然」と強調し、国務院台湾事務弁公室は頼候補を「頑固な台湾独立工作者」「戦争メーカー」と批判した。その姿勢は言葉だけに終わらず、野党系支持者の投票先の分散を防ぐため、有権者の約5%の票を有する郭台銘候補(無所属)の出馬を断念させるため、彼の大陸ビジネスに圧力をかけたとみられる。また台中地方検察署(地検)によれば、台湾のネットメディア記者は中国共産党福建省委員会からの指示に基づき、特定候補者の当落のため総統候補の支持率を捏造して発表したという。

 こうした試みはオンラインでも確認された。中国による台湾へのデジタル影響工作は、台湾の選挙情勢や政治的争点にあわせて展開された。

プラットフォームを横断する情報操作ネットワーク

 24年選挙の焦点は両岸関係や台湾の「あり方」ではなかった。確かに、戦争や両岸・米台関係(疑米論を含む)に関する不確実情報が拡散したが、有権者にどれほど影響を与えたかは分からない。

 台湾有権者の焦点は経済・社会等の内政であり、若年層の失業率や住宅問題といった生活に密接した問題であった。これは20年総統選との決定的な違いである。

 加えて、今回の選挙は8年間の蔡英文・民進党政権に対する評価という面が大きい。蔡政権は2度に渡る統一地方選で惨敗したが、全体としてみれば支持率の高い政権であった。それゆえ民進党陣営はこれを利用し、自動車の運転(国家運営、総統を示唆)を蔡総統から、助手席(副総統)の頼候補に交替するPR動画「在路上 #交棒篇」をYouTubeで公開し、その完成度は高い評価を得た。

PR動画「在路上 #交棒篇」

 しかし、動画が公開された日(1月2日)、研究者がデータ等をアップロードできる「Zenodo」に300頁を超える電子書籍がアップロードされた。タイトルは『蔡英文秘史』とされ、虚偽内容を含むスキャンダラスで権力闘争の物語が展開された。

『蔡英文秘史』表紙

 豪州戦略政策研究所(ASPI)は、この書籍のアップロードやYouTubeでの拡散に、中国発の「スパムフラージュ(Spamouflage)」ネットワークが関わっていたと判断する。

 「スパムフラージュ」とは、「スパム」と「カモフラージュ」をかけあわせた造語で、実際の人物を装い、特定の情報を大量に発信する手法だ。メタ(Meta)が23年8月、中国発の「既知のものとしては最大のプラットフォーム横断秘密影響工作」として検知し、数千のアカウントやページを削除した。そのネットワークはFacebook、Instagram、X、YouTube、TikTokはじめ小規模なSNSを含めて、50以上のプラットフォームを横断し、Metaは中国の法執行機関関係者と結びつけた。


新着記事

»もっと見る