2024年4月16日(火)

デジタル時代の経営・安全保障学

2024年2月6日

 拡散した動画は、読み上げられた候補者と集計された候補者が違い、不正があった、と主張するものだった。ファクトチェック機関「MyGoPen」の検証によれば、これは単なるミスできちんと訂正された。しかし、動画は意図的に訂正部分を切り取っていた可能性がある。

 この類の「選挙不正」動画は目新しいことではなく、2020年の総統選でも確認された。本物の動画と(恐らく)別の本物の動画音声が合成され、選挙不正が行われているという主張が飛び交った。米国では「選挙不正」に関する偽情報が、21年1月6日の米議会議事堂への襲撃につながったことを考慮すれば、懸念すべき偽情報だ。

 24年台湾選挙については、中央選挙管理委員会が、選挙不正を主張する人々が虚偽の情報を流したとして、25事案を検察に送致したと発表している。これら事案のうち、どれほどが外部からの影響があったかのは今後明らかになるだろう。

ハック・アンド・リーク

 今回の選挙で確認された戦術の一つは、サイバー攻撃によって機密情報やデータを摂取し、これを暴露するという「ハック・アンド・リーク」と呼ばれる手法だ。

 12月6日の早朝、匿名の人物がスクープサイト「爆料公社」に「緑色のテロが再燃し、国内の数千人が監視下」として、台湾人のものとする個人データを掲載した。投稿者は、台湾国家安全局や法務部調査局等が台湾市民を監視していて、個人データがダークウェブ上で取引されていると主張する。「緑色のテロ」とは、戒厳令下を想起させる「白色テロ」(体制側による弾圧や粛清)と民進党のシンボルカラーの緑色をかけあわせたものだ。

 結論からいえば、このデータや主張は(一部の事実や)虚偽を含む可能性が高い。漏洩したオリジナルの個人データは恐らく実在のものだが、リストは編集されたもので、氏名や電話番号が一致せず、繁体字が簡体字に書き換えられていた。

 さまざまな情報を勘案すると、この事案は経済的な理由でダークウェブに流出したものが、政治的意図で改変・利用されたものであろう。稚拙な証跡からすれば、暴露を行ったのは洗練された国家アクターの仕業というよりも悪戯目的かもしれない。

 台湾事実査核中心は、こうした暴露は虚偽情報が含まれ、16年米大統領選や17年フランス大統領選の例を引き合いに注意を促す。しかし、米仏の例は大統領候補等の「ハイ・バリュー・ターゲット」を狙ったものであり、ロシア流の「コンプロマート」に近い。

 「コンプロマート」型の暴露は過去、台湾でも確認されている。ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台後であり、統一地方選挙を控えた22年9月半ば、台湾国家安全局・陳明通(Ming-tong Chen)長官と国防部政治戦局長の簡士偉(Shih-wei Chien)中将に関する秘密の海外訪問が不確実情報とともにオンラインで相次いで暴露された。

 台湾の専門家やメディア関係者らの見立てをまとめると、2つの暴露の目的は①政権高官に公費の私的流用等の不正イメージを受け付け、若者をはじめとする台湾市民に現政権や政治そのものへの不信感を植え付けること、②台湾の安全保障が脆弱であることを示すことのいずか、もしくは両方である。

 22年9月と23年12月の事案は中国の関与が疑われるが、恐らく異なる実行者によるものだ。前者のハック・アンド・リークの背景には中国共産党党関係メディアが関与し、高度なハッキング集団の存在も推察される。前述のTeamT5の黄も、標的や手法の洗練さの観点で、両事案は異なるものだと分析する。


新着記事

»もっと見る