2024年11月22日(金)

デジタル時代の経営・安全保障学

2024年2月6日

中国のデジタル選挙干渉の狙いは

 中国の対台湾情報戦を誰が担っているのか。その全体像を把握することは容易ではない。オンラインでの影響工作に係る組織やグループをあげれば、中国共産党中央統一戦線工作部(UFWD)、国務院台湾事務弁公室(TAO)、党中央宣伝部、新華社・環球時報・CGTN等の政府系メディア、外交部とその「戦狼」外交官、国家安全部(MSS)および地方の国家安全局・国家安全庁、人民解放軍(PLA)、党・政府の外側には広告配信を請け負うPR会社、「スパムフラージュ」のような情報戦ネットワークやインフラ、犯罪集団、若い国粋主義者や悪戯目的のユーザ、そして台湾内の現地協力者と多岐に渡る。

 こうした組織の多様性や複雑性を考慮すると、中国の対台湾情報戦は「平和統一」のため、台湾政府や政党関係者の公的信頼を貶める効果を狙ったものとみられるが、そこに一貫した大戦略や諸アクター間の調整が存在するかは疑わしい。

 戦略や調整は欠如していたとしても、中国は24年台湾選挙に対して、新たな戦術やテクノロジーを用いて、台湾政治の文脈にあわせてオンラインで干渉した。その際、完全な捏造情報のみならず、事実と虚偽を組み合わせて、ファクトチェックに適さない「主張」「意見」も利用した。

 選挙結果だけに注目すれば、中国は台湾への干渉にもかかわらず、望む結果を得られなかった。しかし、大西洋評議会のケントン・ティボー(Kenton Thibaut)がいうように、仮に選挙結果を変えることができなくても、「台湾の情報環境に浸透しようとする継続的試みは、選挙プロセスに対する公衆の信頼を貶めうる」。

 別の専門家による似た見立てでは、中国の干渉の長期的な狙いは、若年有権者を非政治化すること、政治や選挙への忌避傾向を促すことだという。選挙結果だけを以って、外部による干渉の成否を論じるのは適切ではないだろう。

 こうした影響工作は、既に顕在化した政治的争点や社会問題、不安を狙う。新たに問題を「捏造」するというよりも、既存の政治的争点や社会的不和を「燃やす」「拡散する」と表現する方が正確であろう。台北大学の沈伯洋(Puma Shen)は「中国の重要な役割は、ディスインフォメーションそのものを製造するというよりも、増幅すること」だという。

 結果、外国による工作活動とそれ以外の自然発生的な誤情報、有権者による正当な主張や表現(もしくは違法行為)を区別することは難しくなり、中国による干渉を「過大評価」「過少評価」するリスクが常にある。 

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