2024年4月16日(火)

デジタル時代の経営・安全保障学

2024年2月6日

 当然、頼候補自身も標的となった。民進党に「3期目」を与えるか否かという状況の中、23年は失政や不祥事が相次ぎ、攻撃者がこれを見逃すことはなかった。中でも、民進党関係者のセクハラと嘘は大きな影響を与えた。

 頼陣営の掲げたキャッチコピー「信頼台湾」は、似た読み方で「セクハラと嘘」を意味する「性Lie台湾」として批判された。Facebookの反民進党系のファンページでは、簡体字交じりで「性Lie台湾」キャンペーンが展開され、中国に起因するグループが拡散したことが示唆される。

 投票日が迫る1月7日には、あるハッキングフォーラムのユーザが(偽の)遺伝子テストの結果をアップロードした。それは頼候補とその「隠し子」に関するテスト結果で、両者が父子である確率は「99.999%」だという。ASPIはこのハッカーを中国共産党とリンクさせている。

ある匿名ユーザがアップロードした頼候補の「隠し子」に関する略歴(左)と遺伝子テストの結果(右)。ただし、専門家によれば遺伝子テストの結果は本来あるべき要素が欠落しており、捏造である可能性が高いという

出所不明の改竄された動画

 2024年選挙のもう一つの特徴は、民進党候補者と対峙する野党系候補者の確定が遅かったことだ。主要三候補は早くから報じられてきたが、「藍白合」、つまり国民党の侯友宜候補と民衆党の柯文哲候補ら野党系候補者の一本化が提起され、破綻し、正式な選挙戦の構図(無所属・郭候補の撤退を含む)が固まったのは11月24日だった。

 台湾のサイバーセキュリティ会社「TeamT5」のサイバー脅威アナリスト、黄芷芸(Chih-yun Huang)によれば、20年総統選と比べると、24年選挙は野党系候補者(すなわち国民党と民衆党)への支援よりも、民進党系候補者(頼・蕭ペア)への批判・攻撃が顕著であったという。ディスインフォメーションを配布する脅威アクターにとっても、誰を支持すべきかが自明ではなかったのであろう。

 「藍白合」の破綻が確定した日の前後、「頼清徳が藍白合に反応」とタイトルがつけられた動画がYouTubeに投稿された。動画は、頼候補が「藍(国民党)や白(民衆党)が台湾民意の主流」と語る。明らかに不自然な内容で、当局とプラットフォームによって迅速に検知・削除されたため、広く拡散することはなかった。

 台湾事実査核中心(Taiwan FactCheck Center )によれば、この動画は、頼候補の11月16日の生放送動画を活用し、一部を改竄することで、頼候補の主張と真逆の内容に捏造されたものだ。人間が知覚できる不自然さは残るものの、「映像編集+音声合成」の手法でオリジナル動画を部分的に歪めていることは注目に値する。改竄にはAIが用いられた可能性が高いことが判明している。ただし、この偽動画の作成者は明らかになっていない。

 投開票後は「選挙で不正があった」という趣旨の動画がTikTok上で拡散した。

 台湾の開票作業は、一般市民に見えるように記入済の投票用紙を頭上に掲げながら、丸印がつけられた候補者の番号を読み上げ、該当候補者を「正」の字で集計する。一般市民はもちろん、外国人もこうした開票プロセスに立ち会うことができる。

2022年統一地方選挙の開票風景(2022年11月26日、台北市内、筆者撮影)
市民からの異議申し立てに対し、開票立合人が当該市民に投票用紙の記入結果を見せる様子(2020年1月11日、高雄市内、筆者撮影)

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