2025年12月6日(土)

SNS時代の戦略兵器 陰謀論 民主主義をむしばむ認知戦の脅威

2025年4月23日

 ①軍事、②外交、③インフラ、④経済、⑤健康・病気、⑥政治家、⑦産業・技術、⑧LGBTQ・ジェンダー、⑨世代間疎外、⑩移民、⑪災害、⑫原子力・放射能、⑬労働管理、⑭移行期正義、⑮同一的制度・倫理・文化、といった各トピックにおいて、個別のナラティブではディープ・ステートや人工地震、ワクチンによる人口削減や移民による日本解体といった陰謀論と関連づけられているものも多い。

 個別のトピック事例については、日本ファクトチェックセンターでこれまでに確認された事例や、他国で起こった事例について日本でも同様の攻撃が考えられるもの、虚偽情報の前例はないが二項対立的に議論になりやすいトピックでディスインフォメーションによる分断惹起の可能性が高いものなど、筆者が収集した事例のうち代表的なトピック例を列挙した。

 「⑪災害」の項目は先行研究の表にはなかった項目を追加したものであるが、地震や台風などの災害が多い日本においては、災害時の情報空間は特に警戒すべき環境であるといえる 。

SNS上での「認知バイアス」に要注意

 前出の図に示した戦略においては、社会の分断を図る二分法と、体制破壊的事案が各国で確認されている陰謀論について、特に注意を払う必要がある。二極化や二項対立といった手法は、トピックス例で挙げている各属性を扇動し分断することが容易な手法であり、逆にSNSなどでもこの戦略に当てはまる構成の記事やポストには留意すべきであろう。

 感情においては、怒りを惹起する内容への警戒が重要である。強い感情は真偽の判断を放棄し情報を共有しようという動機に大きな影響を与えるが、特に怒りが喚起された場合にこの傾向が見られる。

 認知バイアスについては、特にSNS上で起こりやすい、利用可能性バイアス(直近に見聞きした出来事やインパクトの強い情報から判断してしまう傾向)、確証バイアス(自身の考えを支持する情報ばかり集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向)などに陥っていないかという点は常に意識しておく必要があるだろう。

 例えばXにおいては、インプレッションの多いインパクトのある投稿がおすすめのタイムラインに出現しやすい傾向にあり、そうしたアルゴリズムや前述のバイアスの影響を認識していないと、容易に「バズった」ディスインフォメーションに流されてしまうことになる。また、確証バイアス下では、ファクトチェックの確認や複数の情報源にあたる「ラテラル・リーディング(横読み)」などを疎かにしてしまうこととなり、注意が必要である。

 拡散ノードについては、まずは中国やロシアの国家的支援を受けているメディアの発信について警戒すべきであろう。特に中国は、情報戦、認知戦の一環として、この10年間に国有メディアに多額の投資を行ってきた。現在、中国国有メディアは少なくとも12カ国語で配信し、世界中の視聴者にリーチしている。

 主なメディアは、中国メディアグループ(CMG)である中国中央電視台(CCTV)、中国国営ラジオ(CNR)、中国ラジオ・インターナショナル(CRI)、中国国際電視台(CGTN)、新華社通信、チャイナ・ニュース・サービス(CNS)などである。CGTN発行の記事は日本のヤフーニュースにおいて日本語で配信されており、ニュースサイトやまとめサイトなどを閲覧する際には記事の配信元の確認が必須である。

 さらには、中国やロシアは正当なメディアの利用だけではなく、各国に見合ったフェイクメディアを作成し、複数のSNSを通じて複層的に投稿することで、信憑性を高め拡散力を強めているといった動きもある。中国については、ドラゴンブリッジ(スパムフラージュ)、ハイエナジー、ペーパーウォールといった影響力工作の活動が特に有名であり、その射程には日本も含まれていることから注意が必要である。

 

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