ノードとしてのインフルエンサーに関しては、中国はフェイスブックグループや配信者に外貨を支払って記事を拡散させようとする動きがあることや、直接に国からの支援がなくとも、親中派のメッセージを発する配信者には中国の愛国者たちから寄付が集まりやすい構造があることが特筆すべきこととして挙げられる。
台湾では、親中派の記事を広めるだけで、毎月1500アメリカドルをも稼ぐことができるフェイスブックページが確認されている。寄付については、2019年に台湾でインターネット上の寄付を受けたユーチューバートップ10のうち、7人が親中メッセージを拡散していた。トップのユーチューバーは7万人の登録者しか得ていないが、年間100万台湾ドルの寄付を集めていたという。
さらには、台湾の人気バンドに対し、中国国家ラジオテレビ総局が「台湾は中国の一部」という中国の主張を支持するよう要求したが断られ、報復に中国ライブ時のパフォーマンスに対して罰金を科したという疑惑もある。同様のアプローチに対して日本でも対抗力を有するためには、このような芸能関係者やインフルエンサーに対しても、安全保障上のリテラシーを共有し協力を求めていく必要があるだろう。
情報を性急に判断してはならない
ディスインフォメーションによる影響力工作において、外国勢力が介入しているかどうかが即時に判明することは少なく、ある程度時間が経過してからプラットフォーマー側の調査などで判明する場合も多い。そのため、これらのトピック例に当てはまるニュースやSNS言説については、情報の受け取り方や拡散に注意が必要である。
先ほどの図に挙げたような、認知戦において典型的なナラティブとそれに利用されやすいトピックについては、今後、安全保障を踏まえたリテラシー教育などにおいて共有し啓発していくことによって、認知戦に対する日本のレジリエンスを高めていく必要がある。
そして、サイバー空間を中心に展開される情報戦、認知戦に対抗するためには、ディスインフォメーションやナラティブへの対抗だけでなく、我が国のサイバー安全保障を向上させるような法制度の整備も喫緊の課題となっている。
長迫智子「情報操作型サイバー攻撃の脅威(1) ―ディスインフォメーションを利用した情報戦の現状と課題」『CISTEC Journal』、第211号、155-163頁、2024年5月。
長迫智子「情報操作型サイバー攻撃の脅威(2) ―第6の戦場としての認知領域」『CISTEC Journal』 第212号、167-177頁、2024年7月。
