日本にもチャンスはある!
鍵は〝したたかさ〟と〝賢さ〟
冷戦後、内向きだった国々が次々とグローバルエコノミーのプレーヤーに仲間入りし、IT革命が起こり、世界はその後も変化し続けてきた。近年では生成AIも隆盛した。現在を起点に今後の30年を見据えた時、櫛田氏は日本のどこにチャンスがあると見るのだろうか。
「今の日本企業には、グローバルに展開することで活躍している企業が数多くあります。これはある意味でプラットフォームになるはずで、シリコンバレーのように新興企業が集積している場所とWin−Winの関係を築くことも可能でしょう。
例えば、ドローンによる測量サービスを展開している米Skycatch社は、建設機械メーカーのコマツと組むことによって、世界のさまざまな場所での測量経験を積み、技術レベルを大幅に向上させて急速に世界展開しました。これはコマツの顧客である建設業界が抱える人材不足への対応にもなり、まさにWin−Winの関係です」
日本の大企業が協業すべき相手は、海外の大企業であるとは限らない。さらに言えば、全く異なる業種であっても、それぞれの持つ力をうまく組み合わせることで新たな価値を生み出せるのである。
櫛田氏は続ける。
「日本が将来、人手不足に直面することはもはや避けられませんが、上手に課題をチャンスに変えることを考えなければいけません。世界でも少子高齢化が進むことを考えれば、先駆者としてこれらにうまく対応することは日本のポテンシャルにもなります」
また、櫛田氏は「働き手や担い手が少ないからこそ、ITやAIの力も借りながら、人間がしたたかにハイエンドに移行していこうという発想が必要」と強調する。
「デンマークは、日本のモデルになり得る面白い国かもしれません。北欧の中では面積が小さく、移民もそれほど多くない。言語が複雑なことも日本と似ています。
先日、日本の厚生労働省にあたるデンマークの労働省の大臣などと意見交換した際に、『AIは脅威ですか?』と聞くと『全くそんなことはない』との答えが返ってきました。彼らは、AIによって失業者が出たとしても『結局、それはもう、われわれデンマーク人がやる仕事ではない』というのです。
政府の支援も受けながらリスキリングなどをすることによって、人間にしかできないハイエンドな仕事を創出し、そこに人を配置しようというこの考え方は、人口が大幅に減少していく日本にも示唆的なはずです」
労働力不足は外国人で補填しきれないし、便利使いしていては誰も幸せにならない。特に現代の日本はそうだ。だからこそ、先端技術を〝したたかに〟〝賢く〟使いこなすのである。
日米を頻繁に行き来する櫛田氏は、日本に蔓延る「努力賞文化」についても懸念を示す。
「『何事も全力で取り組む』『徹夜で頑張る』などということを全て否定するわけではありませんが、精神論的な『努力賞文化』を美化しすぎることは、将来の日本の首を絞めることになりかねません。
サービス業などに多く見られますが、テクノロジーを駆使することなく人力重視で、何か問題が発生した時に、最前線の現場の人間が誠心誠意平謝りしているのを見ていると、いまだに努力賞文化が強いと感じます」