その意味でパナソニックが今後新たに成長できる分野とはいったい何か。今年1月に米ラスベガスで開かれた世界最大のハイテク見本市「CES」でパナソニックの経営トップとして12年ぶりに基調講演を務めた楠見氏は新たな成長分野として人工知能(AI)を掲げ、「2035年までにAI関連事業の売上高比率を30%にする」と表明した。
米アマゾン・ドット・コムが出資する米新興AI企業のアンソロピックと提携し、対話型AIを使った消費者向けコンシェルジュサービスの「Umi(ウミ)」を今年から米国で始めると発表、BtoB領域でも同社が買収した米サプライチェーン管理システム開発のブルーヨンダーに様々なAIを搭載していくという。
大企業であっても環境に合わせ方向転換しなければ死すだけ
こうした事業転換のためにパナソニックは米グーグル出身の女性経営者などを外部から招き入れているが、事業変革を促すには大胆な人材の入れ替えも不可欠だ。携帯端末から通信機器メーカーへの転身を進めたノキアのリスト・シラスマCEO(当時)は「結果的には経営以外の社員の99%が入れ替わった」と大胆な変革を振り返る。しかし日本型終身雇用制を重視してきたパナソニックにそうした経営改革の荒療治が果たしてできるのだろうか。
「Pivot or Die(方向転換しなければ死すだけ)」という経営書を最近著したCESの主催団体、全米民生技術協会(CTA)のゲイリー・シャピロCEOは「経営環境が目まぐるしく変わる現在は、大企業といえども自ら変わっていかなければ座して死を待つだけだ」と多くのハイテク企業を見てきた経験から経営者に意識改革を促す。
CESの基調講演のトップバッターを務めた楠見社長をホスト役のシャピロ氏は「環境対応など経営変革に果敢に挑むパナソニックのトップ」として聴衆に紹介したが、楠見氏はまさにそうした日本の家電メーカーの復活を具体的な形で示す責務を負っているといえよう。
