春節直前の1月末、彗星のごとく現れた中国の人工知能(AI)のスタートアップ企業、DeepSeek(ディープシーク)。創業からわずか1年あまりで、低コストで生成AIモデルを開発し、欧米や日本に衝撃が走った。
同社の創業者、梁文鋒氏は1月20日、李強首相が開催した非公開のシンポジウムに出席し、初めてその存在が世間に知らされた。無名の人物だったが、その学歴や経歴、容貌が明らかになると、中国国内のメディアの報道はDeepSeekと彼のエピソード一色となった。

2月17日、習近平国家主席が大手民間企業の創業者であるアリババ集団の馬雲(ジャック・マー)氏や華為技術(ファーウェイ)の任正非氏などを招いた座談会を開催したが、それにも招待されるなど、いま、中国メディアで最も注目されている。それと同時に、中国の若者や子どもたち、その保護者らの間で「第2の梁文鋒を目指せ」といった合言葉とともに「AI教育熱」も過熱し始めている。
中国の保護者らを湧き上がらせた経歴
1月27日、春節を前にして、広東省にある李文鋒氏の故郷の村には、赤くて巨大な風船でできたゲートや横断幕などが掲げられ、「熱烈歓迎、李文鋒さん」「故郷の誇り」などの言葉が並んだ。村人たちが大勢集まり、赤いゲートの前で記念写真を撮る姿は中国メディアで大々的に報道された。当の李氏自身は短期間、実家に滞在しただけで、すぐに本社がある杭州に移動してしまったようだが、そのフィーバーぶりはまるで金メダルをとって故郷に凱旋したオリンピック選手やアイドルのようだ。
李氏は1985年、広東省湛江市呉川の米歴岭村に生まれた。両親は地元の教師で、ごく一般的な家庭の出身だ。
幼い頃から成績優秀で、中学校は呉川一中へと進学し、在学中にはすでに高校の勉強をすべて終えており、高考(ガオカオ=中国の大学入試)の際には「状元」(科挙の時代からの首席の呼び名)で浙江省にある浙江大学に進学した。浙江大学は「中国大学ランキング(2024年)」で清華大学、北京大学に次ぐ中国で3位の総合大学だ。
梁氏は同校で電子情報工学を学んだあと、同大大学院で情報工学の修士号を取得した。その後、2015年にヘッジファンド「幻方量化」を、23年には「深度求索」を設立し、DeepSeekを立ち上げた。