2024年6月1日、東京・九段にある靖国神社の石柱に、訪日した中国人男性がスプレー缶で「トイレ」と書き込み、中国のSNSに投稿したことが大きな騒動となった。この男性は「鉄頭」などのアカウント名で動画投稿を頻繁に行うユーチューバーとして、一部の中国人の間で人気があったようだ。
中国に帰国後、この男性は、日本メディアの取材に対し、「福島第一原発の核汚染水に抗議したかった」などと語っており、中国のSNSでは、この男性の行為を「彼は英雄だ」「よくやった」と肯定する声があがる反面、「中国人の恥」「ただ目立ちたいだけ」「愛国を利用している」といった批判的な声も大きかった。
しかし、昨今、中国のユーチューバー、インフルエンサーを中心に、自身の知名度アップ、フォロワー数の増加、お金儲けなどのため、「愛国」を利用する人が増えている。背景には何があるのか。
注目されやすい「日本批判」というコンテンツ
仕事で日中を行き来する男性は、最近、SNS上で「愛国を意識した投稿がかなり目立つようになった」と語る。きっかけは、23年8月に始まった福島第一原発の処理水の海洋放出で、「日本を以前よりもさらに批判しやすい空気が中国国内で醸成されているからではないか」という。
今年5月、都内にある中国系スーパーで販売されていたミルクティーのラベルに、処理水の海洋放出を批判する言葉が日本語と中国語で書かれていたことがあり、それが中国国内で「すばらしい」と絶賛され、SNSで注目を集めたこともあった。この出来事により、同商品を販売する企業も注目されたが、その後すぐにSNS上では「わざと日本批判して、売り上げを伸ばそうという汚い商法なのでは?」との声が相次ぎ、同企業は批判を浴びる結果になった。
靖国神社の落書きの問題にしろ、ミルクティーの問題にしろ、中国では「日本批判」はSNSで注目されやすい。日本批判、日本叩きをすれば、一定の層の人々が喜び、PVが一気に増えるからだ。その背景には、中国の長年にわたる愛国教育と、現在の政権の影響、そしてSNSの発達がある。