ある動画を巡って、防衛省と海上自衛隊(海自)が頭を抱えている。その動画は3月26日に中国の動画サイト「bilibili」に投稿されたもので、横須賀基地の逸見岸壁に停泊する海自最大の護衛艦「いずも」の飛行甲板上空を、ドローンらしき物体がローパスしながら撮影しているように見える。
これに対して、木原稔防衛相は4月2日の記者会見で、「悪意をもって捏造されたものである可能性を含めて分析中」(同日付朝日新聞)とコメントしたと報じられた。自衛隊関係施設と周辺の上空は小型無人機等飛行禁止法でドローンの飛行が禁止されており、違反した者は「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処される。
この動画の問題点はいくつかあるが、筆者は偽情報に関する問題に収斂すると考えている。人の意思を左右する認知領域での偽情報は、安全保障上の重大な脅威となり得るので、専門家のコメントを交えながらじっくりと考察していきたい。
実写かAIをめぐる意見が噴出
偽情報に関する問題は、動画が生成AIによって作られたのか否かに帰結する。とは言うものの、AIか否か動画を判断するのは専門家であっても容易ではない。そのような中で、実写派と生成AI派は各々の見立てを披露しているので、紹介する。
実写派の意見は、「いずもの後方に別の護衛艦が停泊していたとしても、海自最大の護衛艦を上空から俯角するように撮影できないし、周辺に高層建築物もないにはない」、「動画の左上に映っているのはメンテナンス中の米海軍イージス艦シャウプなので、最近撮られたもの」というものが代表だ。
これに関して、海自関係者は「動画がSNSで話題になるや、基地を管轄する横須賀地方総監部で重大な警備事案として取り上げられた」と話す。これは、海自が実写の可能性を十分に考慮していたことを示唆する。
次に生成AI派の意見は、「海面のさざなみが画一的にパターン化している」「基地内の人や車がほとんど映っていない」「飛行甲板の後部に書かれた艦番号83のうち3が消えている」などがある。
筆者はこの基地で勤務したことがあるが、当直員しかいない土日であれば、基地内はこんなものだと思うが、艦番号からは撮影時期を推測することができる。