2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2024年4月3日

「生成AIなら、ものすごくカネと手間がかかる」

 次に、AIとドローンの両方に詳しく、テクノロジー専門ウェブメディア「ロボティア」を運営する河鐘基氏に話を紹介したい。

 「一見しただけでは、実写かAIか判断できません。それだけクオリティが高い動画ということです。生成AIという言葉が身近になり、何か信じられないことが起こると、誰もがAIじゃないかと疑うようになりました。

 しかし、この動画を生成AIで作成するなら、いずもに関する精緻なデータがある前提で、非常に複雑なプロンプト(指示)を正確に出す必要があります。つまり、ものすごくカネ、時間、手間がかかるのです。

 ですから、もし私が同じ動画を作れと言われたら、AIではなくCGで作ります。ただ、CGで作るにしても、さまざまな素材が必要な上、相当の腕がないと無理でしょう。

 このレベルの動画を制作する目的を考えると、AIやCGの高度な技術をもつ中国企業が資金調達やマーケティングでの注目を集めるために行うことが考えられます。しかし、今回の動画は削除されており、これらには該当しません。私は、ドローンで撮影したと見るのが自然だし、コスパもいいと思います」

 河氏の指摘は意味深長だ。生成AIの登場で、私たちは信じたくないこと、信じられないことを、専門的な考察を省いてAIのせいにしているだけかもしれない。これは言い換えると、人の認知領域を操ろうとする側が作戦の主導権を握っている状況とも言える。

情報戦において「沈黙は金」ではない

 空母化された最新鋭の護衛艦に対するドローンの自爆攻撃を想像させる映像が流れ、その映像の真贋について議論が起こったが、政府当局は十分な説明を行わない。動画の背景に認知領域での情報戦があるとすれば、この状況は敵の思う壺だろう。偽情報が拡散している時点で、敵の目的の半分は達成されたと言える。

 判断するための知識や情報がない事象についての議論が憎悪感情よる対立にエスカレートし、政府や専門家が正しい情報を提供しても対立はおさまらず、むしろ、政府や専門家の権威を失墜させる運動が高まっていく。こう書くと何やらデジャブを感じる読者もいるのではないか。

 そう、私たちはつい数年前、新型コロナ・ワクチンで似たような状況を体験してきた。人によっては、東日本大震災に際しての放射能被害を想像するかもしれない。いずれも、正しく判断するには科学的な知識と科学に向き合う冷静な態度が必要な問題だ。

 このような問題に際して人は、未知の知識や情報を吸収すると、それが偽情報であったとしても、自らを進歩的な立場にある人間だと認識して、それらを知らない他者を下に見て攻撃してしまう傾向がある。だからこそ、偽情報が小さな火のうちに正しい情報で消火して、議論が増悪に転化するのを止めなければならない。そして、それは政府の役割だ。


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