2024年5月4日(土)

WEDGE SPECIAL OPINION

2023年10月30日

 「台湾有事」への国民の関心が日増しに高まっている。「抑止力」を強化し、日米台で中国との間で勢力均衡を保つという考えには、私自身、大いに賛同している。ただし、中国が発信する情報などに必要以上に惑わされ、感情的な「中国脅威論」が国内で跋扈することは、逆に中国を利することになるだろう。

戦狼外交の急先鋒だった趙立堅元報道官。彼も中国共産党の〝大幹部〟からの圧力を感じていたのだろうか(REUTERS/AFLO)

 私は、安全保障や国際政治の専門家ではない。幼い頃よりゲームやコンピューターに興味を抱いて以来、東京・秋葉原の電気街に入り浸り、デジタル技術を独学で習得した在野の技術者の一人である。したがって、私の意見が全て正しいわけではないが、いわゆる専門家とは異なる経験をしてきたからこそ、日本で見聞きするさまざまな「中国脅威論」や「台湾有事」の報道を独自の視点から眺めている。

 中国という国の振る舞いや思考パターンには、独特な〝癖〟がある。一般論で言えば、昨今の東京電力福島第一原子力発電所の処理水をめぐる反応─抗議電話やSNSでの偽情報の拡散など─はその最たる例だろう。

 戦狼外交もそうである。多くの場合、中国外務省の報道官は、しかめっ面をして、日本や欧米諸国を強い言葉で攻(口)撃する。もちろん、本心でやっている場合もあるだろうが、見方を変えれば、習近平氏をはじめとする〝大幹部〟たちや14億人の国民からの見えない圧力があるとも考えられる。つまり、「言わされている」「言わざるを得ない」という見方だ。われわれ日本人には、彼らの言動の〝癖〟を見極めた冷静な対応が求められている。

 私の専門とする技術の分野の一つ、ドローンにおいても、中国特有の〝癖〟がある。持論だが、技術開発やそれを支えるプログラミングには「思想」や「思考」が反映されやすい。例えば、日本で何らかの製品を作る場合、技術者同士で「こうしたらもっと良くなるのではないか」と侃々諤々の議論をし、改善を図る。もっとも、その姿勢は素晴らしいが、それによって、ユーザーが全く使うことのない余計な機能が組み込まれることが少なからずある。

 一方、中国の場合、製品が発売された時には既に「作り込まれた完成品」になっており、それ以上の〝伸びしろ〟が少ない印象がある。例えば、中国のドローン大手DJIの製品は安価ではあるが、ほぼ完璧に「作り込まれた完成品」のため、アップデートによる大幅な機能向上や斬新な機能の追加が望めない。欧米製のドローンはこうしたアップデートが期待でき、作り手たる技術者の設計・開発能力を伸ばす余地を感じるのとは対照的だ。

 世の中は常に変化する。本来は変化に合わせて製品もアップデートされて然るべきだが、中国のドローンはいわゆる「遊び幅」が少なく、さらにユーザーの管理を徹底することで技術をがんじがらめにしている雰囲気がある。そのため一度隙を発見されれば、DJIのドローンのハッキングが容易であることは、ウクライナ軍のドローン活用が既に示しているといえる。

 これは、「世界最先端のものを作れ」という上からの強い指示により、やらざるを得ない状況に置かれているからかもしれない。つまり、根底にある自由が少ないという見方もできる。私には、多くの日本人が特に技術の分野で中国を過大評価しているように感じられるが、中国のあらゆる分野の技術が「世界最先端」であり、「脅威」であるとは限らないのだ。


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