備えるために必要な
多様性と若者の活用
台湾有事になれば、中国が地上波をジャックし、SNS上では、フェイクニュースやフェイク動画があふれるといった懸念もある。実際にそうしたことが起こるかどうかは分からない。
ただ、見過ごされがちな点として指摘しておきたいのは、Z世代と言われる今の若い世代は、SNSの爆発的な普及により、自身で投稿するショート動画などを含め、映像を「作る」経験をしている人が中高年世代に比べて圧倒的に多いということだ。無論、デジタル技術への適用力も高い。彼らの映像や情報に対する感性は研ぎ澄まされており、フェイクニュースやフェイク動画などへの〝耐性〟が自然と身についている。
むしろ心配なのは、あまり〝耐性〟がないと考えられる中高年世代や子育て中の女性などである。コメや塩、オムツやミルクといった生活必需品に関する偽情報が混乱を引き起こすトリガーになる可能性は十分にある。武力攻撃をしなくても、中国が日本を揺さぶることはたやすい。
だからこそ、備えを盤石なものにするためにも、国はもっと若者の〝多様な力〟を信じ、活用すべきだ。日本の「台湾有事」の議論で、私が最も強調したいのは、まさにこの点にある。
台湾有事への国民の関心は高まっているものの、真剣な議論は一部の専門家や政治家などに限られている。全世代の関心を高めるには、それぞれの年代に合わせた訴求も必要だ。
例えば、小学生に対して、正面から台湾有事の話をしても関心は高まらない。私の拙い経験だが、小学生を対象にAIの体験授業をした際、「台湾有事が起これば、君たちの大好きなゲーム機が作れなくなる」と伝えたところ、大きな関心を持ってくれた。伝え方にも工夫が要るのだ。
人材確保と育成も急務だ。筆者は日頃から、SNSなどを通して画像解析や動画編集をはじめとするデジタル技術に秀でた若者たちを見ているが、彼らは驚くほど高い能力と自由な発想に裏付けされた発信力を持っている。その中には、いわゆる「オタク気質」な者も含まれているが、彼らを色眼鏡で見るべきではない。
米国では、国防総省が中心となり、多額の賞金を出して、有能な人材を発掘するコンテストがある。日本でも似たような取り組みは始まっているが、米国のように然るべき報酬やポストを与えているとは言い難い現状がある。また、有事に備えて、「あの人が言うことなら(信じる)」という、良質なインフルエンサーの確保や育成も今から始めておくべきだ。
日本社会は、「多様性が大事」だと言っておきながら、真のそれがない。
例えば、専門家といっても同じ顔ぶればかりで、筆者の専門分野の一つである民生用ドローンについても、経験に基づいているとは到底言い難いコメントが散見される。実はこの現象こそ、中国が最も注視している日本の〝弱点〟かもしれず、国民世論の分断に利用される可能性がある。いや、むしろ既に始まっている可能性すらある。
中国を〝正しく恐れ〟〝正しく備える〟ために、国として、もっと自由で新しいユニークな発想をしていくべきだ。(聞き手/構成・編集部 大城慶吾、野川隆輝)