ワシントンポスト紙の8月30日付社説‘Elon Musk’s control over satellite internet demands a reckoning’が、イーロン・マスクが同氏所有の衛星コンステレーションStarlink(スターリンク)を通じてウクライナ戦争をどう戦うかの意思決定に介入し得る状況にあることは問題であり解決が必要である、と論じている。要旨は次の通り。
イーロン・マスクは、所有する衛星Starlinkを通じてウクライナ戦争の戦況のすべてを見ることが可能だと言っている。たった一人の奇矯な男がウクライナの戦争努力にとって致命的に重要な地上300マイルの低軌道を回る衛星インターネット通信を支配しているのだ。
今日、8000近くの衛星が上空にあるが、そのうち4500超はSpaceXが打ち上げたStarlinkの衛星である。SpaceXはこれを将来ほぼ10倍にしたいと希望している。
2022年2月にウクライナのデジタル相がマスクに助力を求め、マスクがこれに応えた時以来、Starlinkはロシアの侵攻を撃退するウクライナの努力を支えて来た。しかし、戦場の通信を一つの枢要なテクノロジーに依存することは、それが誰であれ、そのテクノロジーを支配する人物に依存することを意味する。マスクは大体において文字通り支配が可能だった。
ジオフェンシング(geofencing)として知られる手法を用いて、マスクは前線における彼の衛星の利用を制限して来た。噂によれば、彼は単に防衛的な戦争ではない攻撃的な戦争を支援することに警戒的である。
マスクはこのような決定をすべき立場にはない。ペンタゴンは去る6月にSpaceXとの取引を公表した。
取引の詳細は公表されていないが、報道によれば、ペンタゴンが購入する新たな400ないし500の端末を、少なくともウクライナ領域において、何時何処で作動させるかをペンタゴンが決定するというもののようである。この種の交渉を続けることによって、重大なミッションを遂行するウクライナを援助するための米国の自由を確保することが短期的な解決策である。
しかし、長期的な解決は複雑に思える。目下、最も心配な地域は東アジアである。
台湾の当局者は、世界の通信インフラに接続する台湾の海底ケーブルが切断されることとなる中国の侵攻の可能性にどう対応するか思いを巡らせている。マスクが率いるTeslaの成功が中国における製造に依存していることを考えれば、Starlinkを当てにすることは台湾にとっても米国にとってもお粗末な考えと思われる。
理論的には、大統領にはStarlinkを国有化する法的オプションがあるが、それは賢明ではないであろう。より良い解決策は米国が自らの衛星を構築することを試みることだろう。ペンタゴンはLockheed MartinおよびNorthrop Grummanと低軌道の衛星のコンステレーション構築のための15億ドルの契約を締結したが、そのような戦略の出発点である。
米国がやらねばならないことは、Starlinkが民主主義諸国にとって唯一の好ましいオプションとなることのないよう、小規模でも枢要なオペレーションを可能とするに十分な規模の一群の衛星を構築することである。