22年2月のウクライナ侵攻の直前にロシアはウクライナの通信インフラをマルウエアにより破壊したため、ウクライナ軍の指揮統制システムは麻痺するに至った。この急場を救ったのがイーロン・マスクだった。
Starlink を利用出来るよう急ぎ端末の供与を得たいとの副首相ミハイル・フェドロフの要請に応じ、マスクは多数の端末を急遽ウクライナに送り始めた。マスクの協力がなければウクライナが今日まで戦えなかったことは確かである。
しかし、昨年9月頃にはウクライナおよび米国とマスクの関係を混乱させる事態が発生した。それは、ウクライナがセバストポリに停泊中のロシア艦艇を6台の潜水ドローンで攻撃しようとしていることを知ったマスクが、その行動は核戦争を引き起こすと考え、Starlinkの利用を求めるウクライナの要請を拒絶した一件である。
マスクは潜水ドローンの誘導にStarlinkが使われないようクリミアをStarlink のカバレッジから外す決定をした。マスクは、この事態について安全保障補佐官サリバンとも相談したが、ロシア大使にも連絡し、同大使にロシアのドクトリンによればその種の攻撃は核の報復を招くといわれた由であり、そのことがウクライナの要請を拒絶する引き金になったのかも知れない。主要なエスカレーションを招くミニ・真珠湾のようなことに関りは持ちたくなかったのだとマスクは語っている。
理想は別の衛星を経由すること
上記の社説が指摘するように、マスクはウクライナの軍事作戦を左右するような決定をする立場にあるべきではない。潜水ドローンによる攻撃の件でロシア大使に連絡したというが、尋常なこととは思われない。
折角、Starlinkをウクライナに気前よく提供して貴重な貢献をして来ているのだから、その使用に問題があると考えるのであれば、バイデン政権と協議し、協調して対応出来ないものかと思うが、彼の奇矯な性格のゆえか、そうはならないようである。
短期的には、ペンタゴンがウクライナ向けの端末の一部を買い取り、その使用方法はペンタゴンが決めるとうのが解決策のようである。しかし、上記の社説の指摘の通り、長期的には、台湾有事の可能性を含め将来を見据えれば、マスクに依存しない別個の衛星経由の強靭な通信インフラを構築することが急務と思われる。
マスクは、台湾は中国の一部という趣旨を繰り返し発言しており、最近も「台湾は中国にとり、米国にとってのハワイのようなもの」と述べて物議を醸した。ペンタゴンがマスクに依存しない方向で新たな戦略に着手したことは良いことである。
このような事業は欧州にも日本にも可能であって然るべきだと思われるが、資金力と技術力の面で米国に頼らざるを得ないのかも知れない。