2024年11月24日(日)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年8月30日

 8月8日「中国が日本の機密防衛ネットワークをハックしたと当局者が発言(China hacked Japan’s sensitive defense networks, officials say)」と題する記事がワシントン・ポスト紙のウェブサイトに掲載された。2020年秋に中国人民解放軍のサイバースパイが、日本の最も機密性の高い自衛隊のシステムに侵入していたのを米国家安全保障局(NSA)が発見したというものだ。

(mirsad sarajlic/ ismagilov/ Navamin keawmorakot/gettyimages)

 日本時間の8日には、NHK、朝日新聞、東京新聞など、日本の主要メディアがこの事実を伝えている。

 ワシントン・ポストといえば、ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインの両記者がニクソン大統領のウォーターゲート事件を報じたことで有名だ。スティーブン・スピルバーグ監督の映画「ペンタゴン・ペーパーズ」で描かれたワシントン・ポストの発行責任者キャサリン・グラハムの高潔さに感銘を覚えた人も多くいただろう。

 そうしたイメージから、ワシントン・ポストが伝えるニュースはすべて事実だと信じる人も多い。だが、ワシントン・ポストは、時の政権に寄り添ってきた米国の代表的なプロパガンダ・メディアでもある。

新たな事実はほんのわずか

 記事はエリン・ナカシマ氏の署名入り記事である。ナカシマ氏は1995年にワシントン・ポストに入社し、国家安全保障担当記者としてピューリツァー賞も受賞しているベテラン記者である。

 3000ワードを超えるこの記事は「面談した日米現職・元高官十数名のうちの元米高官ら3人によると、ハッカーらは深く永続的にアクセスしており、計画、能力、軍事的欠陥の評価など、手に入るものなら何でも狙っていたようだったという。この問題は機密性が高いため、匿名を条件に語った」という書き出しで始まり、「2020年の侵入は非常に憂慮すべきものであったため、NSAおよび米国サイバー軍の長官だったポール・ナカソネ大将と、当時ホワイトハウス国家安全保障副大統領補佐官だったマシュー・ポッティンジャーが急いで東京に向かった。彼らは防衛相に状況を説明したが、防衛相は非常に懸念しており、自ら首相に警告するよう手配した」と続くが、目新しい内容はここまでで、あとは米国や日本のサイバーセキュリティにまつわる既報の事実だけである。

 記事内の「この問題は機密性が高いため、匿名を条件に語った」というフレーズはプロパガンダ記事にありがちのもので、記事に信憑性をもたせるために報道されている周辺事実をちりばめているとも取れる。根拠がたった3人の元米軍高官の証言であるため、ワシントン・ポストが記事の発行者でなければ、これだけ大きな話題となっていなかったかもしれない。

 『Wedge』2022年8月号特集「歪んだ戦後日本の安保観 改革するなら今しかない」に、安全保障に関する記事を加えた特別版を、電子書籍「Wedge Online Premium」として、アマゾン楽天ブックスhontoなどでご購読いただくことができます。

新着記事

»もっと見る