「国潮」がブームに
中国の愛国教育は80年代に本格的に始まり、89年の天安門事件以降、90年代に強化された。日本では「反日教育」という名称で紹介され、2012年に反日デモが起きた際、80后(バーリンホー、80年代生まれ)の人々に影響を与えたといわれてきた。
しかし、当時、来日した留学生などに話を聞いてみると、愛国教育の中で、日本との戦争に関する内容は一部であり、「愛国と反日はイコールではない」と否定する人が多かった。ただ、愛国教育を実施してきた中国では、愛国を理由に日本批判をすることが、おとがめの対象となりにくい「愛国無罪」であることを、多くの人が学んできたことも確かだ。
それ以降、再び「愛国」が注目されてきたのは、現在の習近平政権になってからだ。さらにそれが加速したのは、コロナ禍以降である。
新型コロナにより世界中から猛批判を浴びた中国は、メディアを利用して米国批判を繰り返し、米国との対決姿勢を鮮明にし、それと同時に、愛国も強調してきた。中国で、海外製品よりも国産品が愛用される「国潮」がブームになったことも、これと一部関係している。
21年8月、大連に『盛唐・小京都』という唐と京都の街並みを再現した商業施設などがオープンすることになったが、SNS上に「これは日本の文化侵略だ」と批判が大量に書き込まれ、営業が一時休止に追い込まれたこともあった。その年は中国共産党100周年、満州事変の発端となった柳条湖事件から90年という節目の年でもあり、メディアで盛んにそうしたことが報道されていたことから、とくに若者を中心にナショナリズムが高まったのだ。
反日が盛り上がる8~9月は注意を
以前から、日中の敏感な日が続く8~9月の時期になると、中国では反日的な雰囲気が盛り上がることがあったが、ここ数年、それがSNSの過度な発達により、歯止めがきかない状況となっている。中国のSNSは今から10年ほど前の14年頃から爆発的に発達したが、個人のインフルエンサーがSNSでお金を稼げるようになってからは、「ウケるものなら、何でもいい」といった、なりふり構わない、節操のない投稿が急増した。
日本でも迷惑系ユーチューバーは増えており、社会問題になっているが、人口が多い中国では、そうした人々が日本の何倍もいる。もともと政府の宣伝機関だったメディアが、SNSの登場でいきなり開放され、個人が好き勝手なことを書いて、影響力を持てるようになったことにより、一部はまるで無法地帯のようになっているのだ。そして、「稼げる」コンテンツの定番の一つが「愛国」「反日」になってしまった。