2025年3月16日(日)

デジタル時代の経営・安全保障学

2025年2月13日

 中国の新興企業「DeepSeek(ディープシーク)」が開発した生成AIの登場は、AIの開発や運用には莫大な費用と電力を必要とするという従来の常識を根底から覆すパラダイムシフトとも呼べるショックを世間にもたらしている。1時間毎にアプリストアのダウンロード数ランキングを公表している米アプリ調査会社Appfiguresによると、DeepSeekの対話型AIアプリが、1月31日に世界140カ国で、ダウンロード数ランキング1位を記録したようだ。日本でもApple(アップル)のiOS版無料アプリのダウンロード数が1月28日に米OpenAI(オープンAI)のChatGPT(チャットGPT)を抑えて1位を記録した。

ディープシークは、生成AI産業を変えつつある( Robert Way/gettyimages)

 懸念されているのは、中国へのデータ移転だ。DeepSeekのプライバシーポリシーによると移転されるデータは、アカウント作成時に入力したメールアドレス、電話番号、生年月日、ユーザーが入力したテキストや音声、チャット履歴、クッキー情報、そして携帯電話の機種やOS、IPアドレス、キー入力パターンなどの技術情報である。

 メールアドレス、電話番号、生年月日は、個人情報そのものであり、とりわけテキストや音声、チャット履歴は、企業や団体の内部情報や機密情報が入力される可能性があり、注意して使用する必要がある。ただ、これらのデータ移転の問題は、米国製のChatGPTやGoogle(グーグル)の生成AI「Gemini(ジェミニ)」でも同じだ。中国だからダメで米国なら許せるとするかの違いである。

各国政府の規制強化

 DeepSeekの個人での利用が急速に増えている一方で、西側各国はDeepSeekの政府機関での使用を禁止する動きが広まっている。

 1月30日には、いち早くイタリアの情報保護当局がDeepSeekへのアクセスを制限し、調査を始めている。台湾のデジタル発展部は、「DeepSeekは国家の情報セキュリティを危険にさらす製品である」として、1月31日にすべての政府機関と重要インフラサービス事業者に対してDeepSeekの対話型AIアプリの使用を禁止すると発表している。

 2月4日には、オーストラリア政府が「許容できないレベルのリスクをもたらす」として政府機関のパソコンなどの端末での使用を禁止し、韓国も2月5日に個人情報処理に関する懸念から、主要政府機関でのDeepSeekへのアクセスを遮断している。

 米国では、2月6日に共和党のダリン・ラフード下院議員と民主党のジョシュ・ゴットハイマー下院議員がDeepSeekを政府の機器にインストールすることを禁止する法律「政府デバイスでのDeepSeek禁止法案」を提出している。ちなみに提出した議員は下院に設置された「アメリカと中国共産党の戦略的競争に関する特別委員会」のメンバーである。


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