我が国でもTikTokについては何も言わなかった個人情報保護委員会が、DeepSeekに関しては、いち早く2月3日に「情報提供」として「DeepSeekに入力した個人情報を含むデータは、中国に所在するサーバーに保存され中国国家情報法など中国の法律が適用されることになる」との警鐘を鳴らしている。
「中国国家情報法」は筆者の記事でも何度も取り上げてきた法律で、全ての中国人は、中国の情報収集活動に協力しなければならないとする法律である。また、翌4日には、林芳正官房長官が「生成AIを含む約款型のサービスの利用にあたっては、要機密情報を取り扱うことができずリスクを十分認識し、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)およびデジタル庁に助言を求めた上で利用の可否を判断ということが基本であります」と述べている。5日にはデジタル庁に設置されているデジタル社会推進会議幹事会の名で「DeepSeek等の生成AIの業務利用に関する注意喚起(事務連絡)」という文書が発行されている。
ビッグテックは積極的に活用
DeepSeekへの警戒を強める各国政府の対応とは裏腹にマイクロソフトをはじめとするビッグテック(巨大IT企業群)は、DeepSeekの活用に積極的だ。
DeepSeekが現在公開している製品は、2種類である。一つは個人情報のデータ漏えいやセキュリティに甘さが問題視されているDeepSeekアプリで、多くのマスコミはこちらの問題を報道している。
もう一つはGithubと呼ばれるオープンソースライブラリで公開している生成AI型モデルのDeepSeek-V2、DeepSeek-V3、DeepSeek-R1などのオープンソースである。
DeepSeekがオープンソースとして1月20日にDeepSeek-R1をGithubに公開すると、マイクロソフト、インテル、AMD、Amazon AWSなどが自社のAIサービスに正式に組み込むと次々発表したのだ。DeepSeekの登場によって一時的に株価が17%も下落したNVIDIA(エヌビディア)でさえ「DeepSeekは米国の技術輸出規制に準拠したAI技術の進歩だ」との認識を示している(1月28日)。ただ、TPUという独自のプロセッサを開発しているGoogleやBlackwellというAI向けの高性能AI処理専用チップを開発したエヌビディアは、自身の優位性が失われるとの怖れからか静観している。
OpenAIの筆頭株主であるマイクロソフトは、DeepSeek-R1モデルが模擬的なサイバー攻撃(レッドチームテスト)を含む広範なテストとセキュリティ評価に合格したとし、正式にマイクロソフトのクラウドサービスAzure AI Foundryに搭載するとともにGitHubの開発者や教育者がモデルを共有、再利用するためのプラットフォーム「モデルカタログ」に追加した。
OpenAIの方針も変えたオープンソース化
OpenAIとDeepSeekとの違いは学習の仕方などあるが、最も大きな違いはソースコードがオープンにされているかだろう。OpenAIとDeepSeekは、ともに学習データについては公表していない。ソースコードに関しては、OpenAIはChatGPTなど主要なモデルに関しては公開していないが、DeepSeekはソースコードのみならずアルゴリズム、データ処理方法、モデルアーキテクチャドキュメントも公開しており、開発者が自由に閲覧、使用、改変、配布することができる。
日本企業がこれらを参考に日本人の手によって、日本のデータセンターに新たなモデルを構築すれば、中国や米国にデータを持っていかれることもなくなる。SNSにはDeepSeekがMacの上位機種やMacを数台連結して動作したとの投稿もあり、自宅や社内に設置したPCで外部に送信することなく利用できる可能性がある。
DeepSeekの公開は数々の疑惑やプロパガンダと思える報道もあるが、間違いなく新しいステージを切り開いた。日本にとってもチャンス到来である。