グローバル時代のAI通訳デバイス
1990年代。「グローバル」という言葉が一般化に浸透し始めた。冷戦が終わり、資本主義勢力がまさに「地球規模(グローバル)」で経済活動を行うようになったからだ。公用語的に用いられるのは「英語」。英語にも、クイーンズ・イングリッシュ、アメリカン・イングリッシュ、ブロークン・イングリッシュなどがあり、お国訛りなどもあるが、とりあえず英語だ。
1週間くらいの観光なら、ブロークン・イングリッシュでも何とかなる。買い物は、お店の人は売りたいと思っているし、こちらは買いたい。行動のベクトルが同じなので、身振り手振り(ボディ・ランゲージ)を含めると何とかなることが多い。
何ともならないのが、その国での日常生活。 例えば、病院。診断には問診が必要。なぜ、この病院に来たのか、どこが悪いのか、どのくらい痛むのかなどが、わからないと医者は診断することができない。診断に基づき医者は治療法を決めるので、「診断できない=手の下しようがない」ということになる。当然、寝てるだけでは、ほとんどの病気は治らないし、手遅れになる時もある。
こんな時、あったら便利なのが、「ドラえもんのほんやくコンニャク」。「ドラえもん」のひみつ道具の中でも、必ずベスト10に入る逸品である。
今の技術は、特撮・SFアニメに出てくる道具を実現するために開発されてきたところがある。通訳デバイスもその1つだ。どんな効果があるのかも、「ドラえもん」で明確に示されている。
しかし、英語圏の住民、イギリス、アメリカ、オーストラリア、インドなどは、この通訳デバイスは「必要ない」となる。話せるからだ。これらの国での通訳デバイスの積極開発は望めない。
携帯通訳デバイスに本気で取り組んだのは、英語を母国語としない国である。今、世界でも有名なトップ3は、2008年創立のポーランドのVASCO 社、2016年創立の中国のタイムケトル社、そして2017年に誕生した日本のポケトークだ。どの国も英語が母国語でない上に、英語圏からはちょっと距離があり、母国語のスタイルも様々だ。
なお、ポケトークはソースネクスト社の完全子会社だったが、2022年に簡易新設分離している。
そしてこの年から、アメリカでのビジネスが順調に伸び、今では完全な黒字の優良企業になった。アメリカでの売り上げは、2023年7〜9月:170万ドルから、24年(同)426万ドルと、約2.4倍だ。この勢いは鈍化せず、現在も続いているという。
英語圏のアメリカ。しかもグーグル翻訳が、スマートホンでも使える時代、そんなに売れるのか? と思ってしまう。ポケトークの若山幹晴社長に話を聞いた。
「専用端末」の持つ意味
スマートフォン(以下、スマホ)は、クリエイティブな作業には向かないが、ちょっとした作業にはとても便利だ。
ポケトークの今のモデルも、スマホと似ている。内蔵マイクで収音・音声認識し、それをクラウドへ送り、分析・通訳する。またポケトークに送り返し、画面に表示、もしくは読み上げる。
これならスマホ用のアプリで対応、無理に端末化する必要はないのではないか。ネットにはアプリが無数にあり、メイン使いしないアプリは無料アプリで安く上げるというのは、みんなしていることだ。
だが、ポケトークの考えは違い、スマホではなく、専用端末だから、上手く行っていくのだという。
「通訳には、音声認識、セキュリティの高い通信、読みやすく表示することが不可欠です」(若山社長)。
確かに、スマホは機種差、個体差がある。収音マイク一つとっても、レベルは同じでない。都会の騒音下、マイクによっては聞き取れない場合もある。加えて、現在は中古スマホがかなり出回っており、程度の良くないものもある。
収音・音声認識が上手く行かない時があるモデルを、病院で使用するとなるとどうだろうか。通訳が上手くいかなかったため、的確な治療ができず重篤になる可能性すらある。
要するに、ユーザーの持ち物に、通訳品質を託すわけには行かないのだ。
「ポケトークにとって、言語を翻訳するためのソフトウェアの力が必要なことはもちろんですが、ハードウェアもおそろかにすることができません。求められのは、ソフトとハードを組み合わせた総合力です」(若山社長)