2024年12月7日(土)

新しい〝付加価値〟最前線

2024年11月29日

 日本の主食は言うまでもなくお米。少しずつだが、欧米にも愛好家が増えてきている。理由は和食。日本食レストラン数は、2013年和食が世界遺産に登録された時の5.5万店舗から2021年15.9万店舗に跳ね上り、そして昨年(23年)は、18.7万店。まだまだ伸びそうだ。

 人気の高い日本食は、やはり寿司。生の魚がダメということで、ツナ、ささ身、蒸しエビで楽しむ人も多いが、シャリの評判が高い。甘味がやや強めな日本米は、米酢との相性もよく、実際、シャリが好きと言う欧米人も多い。

 個人的に、過去悲惨な体験をした。2000年前半の出張帰り、オランダの国際空港で、友だちに勧められパック寿司を食べたのだが、この時のシャリは半分ノリ状。とてもではないが、食べられなかった。「米がダメなら、魚が良くても喰えなくなるんだ」と痛感するとともに、寿司も日本食、基本はお米と身に染みる体験だった。

 今は、海外の日本食レストランでは、輸入した日本米を使うのは当たり前。だが、それだけでなく、もう一つ日本製のあるものが、当たり前に採用されつつある。

 日本食の一番人気は寿司。店舗を増やすのはできても、修行10年と言われる寿司職人はそう簡単に増員できない。完全な人手不足状態。これを解消するのが日本の「寿司ロボット」。日本初の「寿司ロボット」を作り上げたのは、鈴茂器工(東京都中野区)。今回、海外でも高い評価を受けている米飯加工ロボットをレポートする。

業界では「シャリ玉」と呼ばれる

日本国民全員が白米を食べられるようになったのは、昭和半ばから

「日本は米が主食」と言われ、当たり前の様に思われているが、それは正確には誤り。昔の一般人にとって玄米、雑穀(ひえ、あわ、そば)なども普通食。お金持ちでも無い限り白米はハレの日の食べ物だった。

 ただ、江戸庶民だけは例外。将軍のお膝元ということで、白米を食べていたそうだ。そのために「江戸煩い」という病気があったほど。、江戸煩いというのは「急性かっけ」のことで、心臓がやられ命を落とすことも多かった。

 江戸っ子は「宵越しの金はもたねぇー」と、よく言うが、高い白米ばっかり食べてたら、当然銭は残らない。また握り寿司は白米でないとさまにならない。寿司が江戸前なのも納得が行く。

 明治になり軍隊が組織されると、軍の食事は白米。地方から来た兵隊は、白米のあまりの美味しさに、ご飯をおかずに、ご飯を食べたという。日露戦争では、203高地など肉弾戦の凄さが伝えられているが、ビタミンが発見されるまで、実は戦場より急性かっけでの死亡が多かった。それはさておき、以降、第二次世界大戦、戦後の闇市。日本人はまだ十分白米を食べられない。

 日本人が全員、白米を楽しめる様なったのは、1965年から。だが、食の欧米化、食糧管理制度により、農家からの買取価格より売渡価格の方が安いなどの問題があり、日本政府は1970年から減反政策を取る。以降、日本では、あれだけ渇望されたお米はだんだん作られなくなって行く。

ロボットは、政府の減反政策から始まった

 それを聞いて「よくない」と思った人がいた。東京で和菓子、餡子の製造器械を手がけていた鈴茂器工の創業者 鈴木喜作氏だ。

 白米を腹一杯食べることができるのは、日本人の夢の一つ。しかし、それが可能になったら、すぐに畑に切り替えろというのは、経済としては正しくても、心情としてやりきれなかったと思う。

 彼は一つのアイディアを出す。当時、高級品の寿司を、皆が食べられるようにしたら、知らず知らずの内にお米の消費は増えるのではないだろうかというアイディアだ。鈴茂器工が社をあげて開発するのは1977年からだ。

 当時、新しい大衆的な寿司もいろいろ動きを始めている。

 1958年「コンベヤ附調理食台」という特許を基に、大阪で始った回転寿司(店名「廻る元禄寿司」)が、1970年の大阪万博にも出店。知名度を挙げ、一気にフランチャイズ展開を進める。
ただ、1978年に特許が切れると、似た形態の店舗が一斉に増えた。一強から一気に戦国時代。当然、寿司職人が足りなくなった。

 鈴茂器工が1号機を作り上げたのは、1981年のこと。目指したのは、寿司職人が握るシャリ玉。約5年掛けての開発した。寿司の業界では「シャリ炊き3年、合わせ5年、握り一生」。10年で一人前と認められる世界。

寿司ロボット初号機

 試作機を作っては職人に見てもらったそうだが、そう簡単にOKは出ない。苦労したのは、口中でシャリがほどよくくずれること。これは米粒と米粒の間に適度な隙間があり、それがシャリの端から端まで均一なことが要求される。例えば、漫画『美味しんぼ』(雁屋哲〈作〉、花咲アキラ〈画〉小学館)でも取り上げられた、有名な話で、漫画内ではCTスキャンで隙間を見せていた。

4800個/時間の能力を持つ、現在の寿司ロボット

 食材を扱うのは、手のひらにできる凹み、いわゆる掌(たなごころ)が重要な役割をするが、職人からは「掌がない」=「美味くない」と何度もダメ出しされたそうだ。AIもビッグデータもなく、機械調整もアナログの時代。極めるのは大変なことだったはずだ。

 1981年から市場導入された寿司ロボットは大いに人気を博した。回転寿司だけでなく、持ち帰って食べる寿司、スーパーもパック寿司が並び始める。寿司ロボットの需要は増えた。

 2024年の今、寿司ロボットはスピードは、最高で4800個/時。1時間は3600秒なので、1個握るのに1秒かかっていない。50個用のシャリトレーなど、あれよあれよと言う間に満杯。これ位のスピードがないと、人気店のランチ対応はできないそうだ。

 試食させてもったが、高速で握っても、口中でのほぐれ具合は変わらない。


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