2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2024年6月26日

 重たい電子レンジを気軽に携帯できるようになったら世の中をどう変えられるだろうか。その難問にチャレンジしたベンチャー企業が今、世界の注目を集めている。

CES2024「INNOVATION AWARDS」を受賞した「ウィルクック」。手前のポケットにバッテリーを入れる(WILLTEX)

 「持ち運べる電子レンジ」─。ベンチャー企業WILLTEX(ウィルテックス、横浜市中区)がリリースした「WILLCOOK(ウィルクック)」の宣伝文句だ。「ウィルクック」は毎年1月に米ラスベガスで行われる世界最高の家電見本市であるCES2024において「INNOVATION AWARDS」を受賞した家電だ。

 「電子レンジ」は、マイクロ波(電磁波)エネルギーで水分子を振動させ、熱エネルギーを発生させるシステム。弁当など、さまざまなものを温めることができる。電子レンジの筐体が大きく、重たいのは、マイクロ波を使用するからだ。軽い電磁波遮断防護布も存在するが、マイクロ波を出す装置は重い上、電力は最低でも500ワット時が必要になる。手軽に携帯して持ち運ぶことはできない。

 実はウィルクックは、電子レンジではなく、「布ヒーター」が使われている。しかも布でも「織物」ではなく「編み物(ニット)」を使用している。ストレッチ性があり、手が透けるレベルで厚みもない。電気が通るような布にするには、電線を横糸にした織物のほうが作りやすい。それでも、ニットにすると実用性が格段に上がる。電気を送るための電線もニットでできた伸縮電線を使っており、このヒーターと伸縮電線の国際特許は、後述する三機コンシス(東京都江戸川区)が取得している。

 ウィルクックの設定可能な温度は、①約40〜50度、②50〜65度、③65〜85度、④85〜100度の4段階。温度操作はバッテリーのボタンで行う。スマホアプリからも操作できる。バッテリーは120グラムと大きくないが、温度ごとに①8時間、②4時間、③2.5時間、④2時間程度使うことができる。

 ただし布ヒーターだけだと保温できない。熱は拡散してしまうからだ。布ヒーターは断熱した環境でこそ真価を発揮する。ウィルクックの、もう一つのキー技術は断熱である。

 チャックを開けると「平面」になるウィルクックが温められるのは、食品だけではない。設定を低温にして、体に巻き付ければ、暖を取ることも可能だ。災害、遭難などの緊急時にも役立つ。発想次第で用途はいくらでも増える。これからのキーワードと言われる「フェーズフリー」そのものだ。実際、CES以降、カナダ軍からも問い合わせがきている。軍隊は戦場において、最低限の支給装備で戦わなければならないため、装備はできる限りフェーズフリーが望まれる。


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