この布があったから
ウィルテックスを立ち上げた
「温まる布」を見て、木村さんはウィルテックスの起業に踏み切る。「いつかは起業したいと考えていました。このチャンスは逃したくない。この布ヒーターがあれば、世界を制することができると思いました」。
松本さんには、これまで大手企業を含めていくつものオファーがあったが、断っていた。フィーリングが合わなかったのだ。それに対して木村さんや上田さんは繊維業界にいたからこそ、布ヒーターの価値を理解していた。2人の想いを支えるのは「尊敬」である。高値で売れるからそれで良いというのではない。世に新しい道が拓けることを望むことが多い。それが合致したのだろう。
松本さんの右腕であるFIL・総合企画室長の杉山博美さんも「うちは特許貧乏です。でも、やりたいことをやったほうが楽しいですもんね」と笑う。
両社が提携することになって最初に企画したのが「温まるベスト」だ。展示会で出展すると、某道路法人が興味を示してくれた。これが信用となり、銀行からの融資も決まり、商品化にこぎつけた。「初年度の売り上げが億単位になるなんて思ってもみなかった」と、木村さんは振り返る。
しかし、新型コロナウイルスのまん延で工事数が激減した。この時ODM/OEM事業中心から自社ブランド中心へのビジネス転換を図る。自社ブランドが根付くと、外部の影響を受けにくい。このため最初のアイデアでもあるウィルクックの開発に着手した。そこで活用したのが、応援購入サービスの「Makuake(マクアケ)」だ。
マクアケで商品のプロジェクトページの魅力や応援購入金額の最大化のサポートをするキュレーターの成毛千賀さんは、ウィルクックの第一印象を「第一弾の商品のお話を聞いた時は、バッグで調理ができるなんてまるで魔法みたいな商品だな、と驚いたことを今でもよく覚えています」と、振り返る。結果は、応援購入が1100万円。目標金額の3689%。サポーター536人という大成功となった。それが、CESにもつながった。
三機コンシスも、ウィルテックスも、分業・協業するのは当たり前という感覚だが、ベンチャーとしては珍しい。三機コンシスの布ヒーターが50年も前からあるならともかく、布ヒーターも新製品。こんな時は、一緒に会社を作って進めることが多い。
しかし繊維業界では分業が当たり前とのこと。糸、布、服。全部違うメーカーがビジネスしている。服屋は布屋に「こんな布はない?」と聞き、布屋は糸屋に「こんな糸がない?」と聞き、新しいものを作ってきた。
いま、三機コンシスと、ウィルテックスは、志を同じくする複数のプレイヤーとアライアンスを結んでいる。生活を良くしようという思いでまとまったアライアンス。古くからの分業、自分たちの得手を活かせるビジネスプランだ。今後の活躍を期待したい。