2024年12月13日(金)

新しい〝付加価値〟最前線

2024年7月6日

 洗濯は、衣食住の「衣」で、とても重要な家事だ。ただ昔とは、大きく異なる。まずアスファルトで道路を覆ってしまったので、普段の生活では泥汚れは付かない。夏の温度は上がったが、エアコンがあるので、汗だくだくになる状態は限られる。要するに、あまり汚れなくなったのだ。

 一方で、共働き世帯が増えたことで、どうしても「まとめ洗い」が多くなる。そして、今の時代、キレイに汚れが落ちるのは、当たり前。ユーザーは何に関心を持っているのかというと、「香り」と「時短」だ。このため、メーカーも香り付きの洗剤をラインナップしている。人気、定番の香りと言ってもいくつもあり、それに伴い、洗剤もいくつあるのか分からないと言ってもいいほどの状態だ。

 そして、ライオンから、おしゃれ着洗剤「アクロン スマートケア」が発売された。売り文句は、「すすぎ0」だ。

 この特異な洗剤を例に、洗濯洗剤とはどういうものかレポートする。

「アクロン スマートケア」

「すすぎ0」のメリット

 洗濯は汚れを落とすが、同時に衣類を傷めているとも言える。傷めている証拠は洗濯時に出てくる糸(繊維)屑(くず)。ドラム式洗濯機は衣類を叩きつける、縦型洗濯機は衣類をドラムに擦り付けるという物理的な力で、化学的な力で汚れを落とす洗剤のサポートをする。この時、布がダメージを受けるのだ。

 さて、標準洗濯は「洗う」×1回、「すすぎ」×2回、「脱水」×1回で構成される。ここからすすぎ工程をなくした状態(すすぎ0回)になると、布のダメージも少なく、時間的にも、経済的にもメリットが大きい。時間で20〜30分、経費節減としては、水道代。2回で60リットルとすると、0.24円/リットル換算で、14.4円。これ以外に電気代が加算されるが、普通の場合、洗濯は熱変換を伴わないので、すごく安い。

「すすぎ0」の洗剤とは

 メリットは凄そうだが、おしゃれ着洗剤「アクロン スマートケア」とは、どんな洗剤なのか?

 まず「おしゃれ着用」だ。「おしゃれ」という感覚的な言葉が使われているが、実はすこぶる明確な定義がある。

「水温30℃を限度に、洗濯機で非常に弱い洗濯ができます」
「水温40℃を限度に、手洗いできます」

 という洗濯ラベルが付いている服が「おしゃれ着」だ。

 おしゃれ着を洗濯機で洗濯する場合は、洗濯機の「おしゃれ着コース」もしくは、メーカーが指定したコースを使用することになっている。洗い方を見た瞬間に、汚れは落ちるのかと言う思いに駆られるほど、弱々しい。

 手洗いも同様に、弱い洗い方だ。「押し洗い」「アコーディオン洗い」「振り洗い」の3つがあるが、どれも洗濯物の型崩れを防ぐための洗い方とも言える。

通常の洗濯
「すずぎ0洗浄のメカニズム」

 おしゃれ着洗いは、洗濯機や手の物理パワーより、主に洗剤の化学パワーを使うのだ。

 では、よく落ちる強い洗剤なのかというと、そうではない。洗濯の洗浄力は、基本2つの要素で決まる。1つは洗剤のpH。これは皮脂汚れなど、ほとんどの汚れが弱酸性だからだ。このため、弱アルカリの洗剤が汚れを落としやすい。しかし、おしゃれ着用は手洗いできるのが条件。肌を傷めない中性であり、弱アルカリで汚れを落としやすいと言うことはない。

 もう1つ汚れに効くのが、界面活性剤の量。界面活性剤は、片端に親水基(水との親和性が高く、油とは低い)、逆の端に親油基(親水基の逆)を持つ。洗濯は汚れを衣類から水に移し、服をキレイにする行為。しかし、汚れの多くは油性なので、水とは馴染まない。このため界面活性剤を使う。界面活性剤は汚れに触れると、親油基で汚れを覆う。新油基で覆われた汚れは、逆方向にある親水基の塊となり、水に溶け出す。

 では界面活性剤は、多ければ多い方が高洗浄力で万々歳かと言うと、ちょっと違う。汚れあっての界面活性剤。汚れがなくなると、界面活性剤は環境破壊に繋がる。1970年代、ライオン本社の近くを流れる隅田川は汚染され酷いものだった。自然の浄化作用を上回る汚物で川が埋まった。その中の1つが過剰な界面活性剤。最終的に下水浄化技術、設備でかなりキレイに戻したが、その間、隅田川の春の名物、早慶レガッタも隅田川でなく、別のところで行われる始末だった。また昔取れた魚も取れなくなった。

 衣類ケア、ホームケアなど、ほとんどのケアは洗剤が使われる。洗剤メーカーは、この失敗を踏まえ、汚れが落ち、なおかつ、日本の下水処理技術で環境に負荷のない状況にできるよう成分調整をしている。

 実は、一般洗剤の界面活性剤量に比べると、おしゃれ着用洗剤の界面活性剤量は少ない。これは、おしゃれ着は汚れないように丁寧に着られるためだ。子どもの頃、わが家には「よそ行き」用の服があった。母から汚さないようにと散々言われたものだ。着たまま公園に遊びに行こうものならすごく怒られた。。

 おしゃれ着用洗剤は、汚れが少ないおしゃれ着、万が一汚れても、なるべく早くきれいにしようとするおしゃれ着を前提に作られている。間違っても、洗うのは一週間後と言うことにはならない。

 すすぎは、水の中を移動した汚れが、再度衣類に付着させないために行われる。汚れが少ないと再付着する可能性は少ないが、それをより確実にするために、さらに再付着防止剤が入っている。

 汚れが少ない。また、汚れを落としやすい間に洗濯。こう言う少ない汚れに合わせ界面活性剤をコントロール、加えて汚れ再付着防止剤を入れる。こういった、諸条件が揃ってこその「すすぎ0」なのだ。どんな汚れでも対応できるわけではないのだ。

 また色々な「専用」洗剤があるのも、同様に説明することができる。例えば、ドラム式専用洗剤。ドラム式は少ない水量で洗濯する。水量が少ないと汚れ再付着の可能性があるので、汚れ再付着防止剤が入っている。縦型はたっぷりの水で洗うので、汚れ再付着防止剤は基本入れない。洗濯機、洗剤、水、汚れを常に考えるとよく分かる。


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