2024年11月29日(金)

新しい〝付加価値〟最前線

2024年11月29日

大阪万博にも出展予定

 1906年のミラノ万博で有名なエピソードに、エスプレッソマシンのデビューがある。それまでのコーヒーは3分以上かかるハンドドリップでの抽出だったのを、たった30秒で抽出。名付けて「エスプレッソ(急行)」。お客を捌くための手段だったが、大きなインバクトがあり、ヨーロッパのコーヒー=エスプレッソ標準になった。

 また1970年の大阪万博では回転寿司が目玉の一つで、回転寿司が日本全国に拡まることになったのは前述の通りだ。

 来年の大阪万博では、象印マホービンが出すおにぎり屋に鈴茂器工の機器が採用される。象印は炊飯器でも有名だが、「象印食堂」も運営しており、ランチ対応は未経験ではない。

おにぎりロボ。大阪万博にも登場予定

 ただし今回は、注文されてからおにぎりを握るので、汎用性の高い、半自動ロボットとなる。タブレットでの注文がロボットに届き、ロボットは注文に従い1つ1つの工程を進めて行く。

 まず、おにぎりの型へ規定量ご飯をふんわり落とす。型のご飯をならし、オーダーされた具材を入れるのは人の役目。ここを自動にしなかったのは、具材種類が多いので、ロボット化すると、巨大になり、予定スペースに収まらないからだ。具材の置かれたおにぎりは、次のエリアへ移動。合掌するように、型を折り曲げ、おにぎりを形作る。合わせるので具はおにぎりの中心にくる。その後、軽く圧をかけおにぎりを固める。

おにぎりの流れ(機械でする部分を一部手動で行っている)

 とはいうものの、おにぎりの時も美味しく食べられるように、ふんわり感を残す。それまでのロボットはふんわり感を消さないように、上から下への移動させるのがセオリー。しかし、おにぎりロボットは、スペースの関係で、掴み上げる作業となる。技術的なハードルは高い。

 つまみ上げ、海苔シートの上にちょんと置く、お米の粘りで海苔1枚だけくっ付いて最終工程へ。人の手により海苔が巻かれ、お客が望む形で出される。最終工程が人手なのは、店内で食べる、持って帰るなどいろいろ想定されるからだ。

おにぎり搬送。かなり難しい技術。板海苔に触れさせて、一枚ピックアップする

 注文通りに、形を崩さず、美味しいおにぎりを握る。簡単なようだが、難しい。試食したが、ご飯のほろり具合も、寿司よりやや固めなおにぎりに合わせてあり、なかなかのものだった。

ロボットビジネスと文化貢献

 鈴茂器工は従業員約500人。2024年度のグループ全体の連結売り上げは、約145億円。国内:海外=7:3。将来は半々になるのではとのこと。

 鈴茂器工のビジネスは、いろいろな意味でとてもしっかりしている。特に、炊き上がったご飯という、ハンドリングしにくいモノに対する技術であるのが強みだ。モノを動かすというアナログ技術は、そう簡単に他社の真似ができない。ロボット掃除機のトップメーカーiRobot社の開発者は、自分たちのすごいところはデジタル技術では無い。真似できない、実際に掃除をするハード、アナログ技術がすごいのだ、と言っていたがそれに似る。

 加えて、ビジネスタイミングが信じられないくらいいい。寿司ロボット市場導入が、回転寿司の基本特許期間が切れ、同様のマシンを別の会社も作れる様になり、職人が足りなくなったこと。海外に進出する時、和食が世界遺産になり、ブームが訪れたこと。機を見るに敏である。

 鈴茂器工のビジネスは、いわゆるニッチビジネスだが、確実な需要を、確実な技術でキャッチしている。追従したくても、業務用なので、性能と共に、実績、信頼が大事。とって変われるメーカーは思いつかない。

 しかしそれよりも、重要なことがある。日本食のレベルを作ったことだ。今のスーパーのパック寿司がそれなりに美味しい。昔はマズイ寿司も多数存在した。しかし今は、寿司職人の寿司には及ばないもののそれなりに美味しい。このことは、とても重要だ。食事が食べられればいいと言う人もいるが、60年代、イギリスの労働ストの原因は、食事が不味いというのが原因だった。それを思うと、今の日本はすごい。その一翼を鈴茂器工が担っているのだ。鈴茂器工のご飯ロボットは、間違いなく日本人の食生活の底上げには寄与している。創業者の思いは、当初とは異なる形だが、今の日本に大いに寄与している。これはすごいことだと、言えるのではないだろうか。

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