【FAZ 論説:西側、自らを弱体化させる】(Nicolas Busse)
バンス副大統領の演説を聴いた人はNATOが崩壊したとの印象を持ったかもしれないし、欧州はプーチンとトランプという二つの安全保障上の問題を抱えていると思った人も多いであろう。しかし、バンスの言動を過大評価すべきではない。確かにバンスが緊急の欧州安全保障上の問題について語るのではなく、言論の自由と民主主義についてお説教をしたことは異様であった。
演説でNATOの名前は出なかったし、ウクライナにはついでのように触れられただけだった。主要点は、「欧州への脅威はロシア、中国のような外部からではなく内部から来る」というものだった。これはとんでもない言い分であるが、バンスはトランプ主義への特に熱心な改宗者であり、彼の演説はウクライナについての政権の計画よりは彼自身の野心を示している。
もっとも内容的にはバンスは全く間違っている訳ではない。会議直前のミュンヘンでの事件のように、大量の移民が欧州の大きな問題となったことは争う余地もない。バンスが挙げた他の例も嘘ではない(ルーマニアの大統領選挙、AfDのこと等)。
バンスが矩を超えたのは、ドイツの政治的「防火壁」を取り払えとの要求とAfDへのあからさまな肩入れである。ショルツ首相とメルツ野党党首がドイツの選挙への介入に抗議したのは当然である。
また、バンスが今日の欧州をかつての東側と比較したのも誇張である。欧州が米国より民主主義的でないということはないし、民主主義国の間では相違が敬意をもって受け入れられるべきである。バンスが文化闘争をNATOに持ち込もうとしたことは西側を強化するものではない。
欧州自身もミュンヘンで良い印象を与えたとは言えない。ショルツは債務ブレーキの話で退屈であったし、マクロン、スターマー、メローニ等はそもそもミュンヘンに来なかった。欧州にとっての最大の課題はNATO加盟諸国が自身とウクライナのために大幅に軍備を強化することである。
【WSJ 論説:欧州への西側不和のメッセージ】(Walter Russell Mead)
トランプ政権の考え方は、「米国は資源をインド太平洋に割く緊急の必要性があり、ウクライナの将来にいつまでも関わっていられない。ロシア抑止は欧州の問題」というものである。バンス演説も、またショルツと面会せずにAfDの党首と会ったことも同じメッセージである。過去 30 年間、防衛に対してより大きな責任を負うよう要請してきたが、もう終わりで、欧州、特にドイツは、米国の保護を最早当てにできないということだ。
トランプの欧州政策の結末には二つの可能性がある。一つはこれがショック療法となり、欧州が力を取り戻し、より現実的な同盟を期待できるように変化することである。もう一つは大西洋間の共同体の終わりの始まりとなることである。