いずれにしても、トランプの欧州政治への最初の攻撃はすぐに忘れられることはないであろう。欧州は今となってはドゴール将軍(かつて、欧州はいつまでも米国の白紙小切手を当てにすることはできないと述べた)は正しかったと考えている。ショックを受けて怒っている欧州の友人が、過酷な一週間から賢明な教訓を得ることを希望する。
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3論説で別れた見解
バンス副大統領がミュンヘン安全保障会議で、「欧州への脅威はロシア、中国のような外部からではなく内部から来る」等述べて欧州の民主主義に対する激しい批判を行ったことは、欧州に大きな衝撃を与えた。会議前からウクライナ問題についてのトランプおよび政権要人の一連の発言が大きな懸念を呼んでいただけに、バンスが安全保障会議という舞台でウクライナ、対ロシア関係についてトランプ政権の考え方を開陳するというのが大方の予想であったが、バンスがウクライナにはほとんど触れず、欧州の民主主義への攻撃に終始したことは、欧州にとって二重の衝撃であった。
上掲3論説のうち最も強い危機感を露わにしたのはFTであり、それは「バンスの演説は西側同盟の基盤であった自由、民主主義や価値についての考え方をひっくり返すもの」、「米国の文化戦争、安全保障、欧州の政治が最早切り離せないことは明らか」、「欧州は米国との関係の derisking という苦しいプロセスを始めなければならない」等のくだりに顕著に現れている。
FAZ論説は、ドイツのメディアとしては比較的淡々とした醒めたものである。「内部からの脅威」については「とんでもない」とし、また、AfDへの支持を「矩を超えた」と退ける一方で、演説をバンス個人の特性によるとし、また、同人の言い分が「内容的に全く間違っている訳ではない」とする。
WSJ 論説は欧州と米国の立場を並べて記述しているが、結論は米国の立場に立ったものである。
バンス演説が果たしてトランプ政権全体の方針なのかは定かではないが、この演説やトランプとその周辺の発言からすると、トランプ政権が民主主義や言論の自由という価値の捉え方で、欧州の現在の大方の考えと異なる立場を有していることは否定しがたい。 FT が指摘するように、こうした価値を巡る差異(「文化戦争」)が安全保障や経済にまで持ち込まれることは懸念される。
それにしても、「欧州への脅威は内部から」というバンス演説の論理には相当無理がある。また、彼が挙げた事例が問題を含むものであったとしても、それをもって現在の欧州が権威主義国(制度的かつ大規模に人権を抑圧している)より脅威だとするのは乱暴な議論である。