ゼレンスキーの「暴走」を誘発
そのおよそ半月後、バンスは、世界が注目するトランプ大統領とゼレンスキー大統領とのホワイトハウスでの会談の場において、最もトランプ大統領から近い席についていた。外交を任されているルビオ国務長官よりも上席であった。
和やかに会談が進む中で、それまで沈黙を守っていたバンス副大統領は、「外交に取り組むのが大事で、それはトランプ大統領が取り組んでいることだ」と大統領を評価する発言をした。それに対してゼレンスキーは、これまで米大統領が誰もロシアの侵略を止められず、また、ロシアも約束を守らないにもかかわらず「外交」が大事と言っているが、「どういった外交の話をしているのか」と食って掛かった。
それに対してバンスは、「あなたの国の破壊を止める」外交の話をしており、メディアの前で論争を吹きかけるのは失礼であり、戦争を止めようとしてくれているトランプ大統領に対して感謝が足りないと言い返した。そのあとトランプ大統領が割って入り、二人の大統領のやり取りが続くが、その間もバンスは「礼を言ったか」、「感謝を示せ」「礼を」と何度も口を挟んでいる。世界が注目する中で、ゼレンスキーの「暴走」を誘発したこの発言によってバンスは再び検索件数上位に躍り出た。
これまでの副大統領とは異なる姿
そもそも米国の副大統領が注目されるのは異例である。職責が定められた各省の長官らと違って、副大統領に特に定められた任務はない。自動的に上院の議長となるが、同票の場合に票を投じるだけで、通常の議事は議員によって進められる。
そのため初代副大統領を務めたジョン・アダムズが、副大統領職のことを「人がこれまでに創り出したものあるいはその想像力で認識できたものの中でも最も取るに足りない役」と呼んだことは有名である。
大統領職を描いたドラマや映画は数多く存在するが、副大統領を主人公に据えたドラマは、職としてあまりエキサイティングでないせいか、ほとんどなく、唯一といってもいい例外がHBOで放送された『Veep/ヴィープ』である。副大統領職の呼び名そのものをタイトルに掲げたドラマである。米国の国民的人気ドラマ『となりのサインフェルド』のエレイン役で有名なジュリア・ルイス=ドレイファスを主役に据えていることからもわかるようにコメディタッチで副大統領の軽く扱われ具合が政治風刺的に描かれている。
実際の世界でもその軽さは同様で、例えばバイデン前大統領がオバマ政権において副大統領だったときは、「バイデニング」(バイデンする)という言葉まで使われた。特段重要なことをするわけでもなく、しかし常に傍らにいるという意味である。