近年、二次創作のガイドライン違反に関する事件も起きています。ガイドラインの法的意義は何か、示談金はどのように決まるのかについて、整理していきます。
語り手:寺内 康介(弁護士)
聞き手:KAI-YOU(ポップカルチャーメディア)
構成・執筆:長谷川賢人
*本記事は、『ポップカルチャーを愛し続けるための法律入門 どこから盗作? どこから中傷?』(ウェッジ)から一部抜粋、編集の上掲載しています。
――VTuber*1グループ「ぶいすぽっ!*2」のガイドラインに違反した二次創作について、2千万円という多額の示談が成立したことが注目を集めました。この示談では、250万円を支払えば残額を免除するという条項もあったようです。この事例における損害賠償額の算定根拠と示談内容について、法的観点からどのように解釈されますか?
2025年1月、VTuberグループ・ぶいすぽっ!が、性的イラストを無断で作成・販売していた人物との示談成立を公表した。グループの二次創作ガイドラインでは、「暴力的、グロテスクなもの、または性的描写に該当する一次創作コンテンツの利用や二次創作活動」が禁止されていた。示談内容として、該当するイラストの全削除と販売停止、今後著作権侵害等を行わないことの確約、そして損害賠償金として2千万円の支払義務が科され、その多額な示談金に注目が集まった。なお、示談で取り決めた内容を遵守し、「かつその一部として250万円の支払いを遅滞なく完了すれば残部の支払義務を免除する」としている。
「ぶいすぽっ!」の件は裁判となる前に和解した例ですので、どうやって2千万円が算定されたかはわかりませんが、せっかくですので、著作権侵害における損害賠償額の算定一般についてお話ししましょう。著作権法では、損害額を推定する方法が114条に規定されており、大きく3つの考え方があります。
1.侵害がなければ権利者が得られたであろう利益(著作権法114条1項):侵害行為、例えば「海賊版の販売」がなければ、原作者がその分売上を伸ばすなどして得られたであろう利益を損害と推定する方法
2.侵害者が得た利益(著作権法114条2項):侵害者、例えば違法な二次創作者が得た利益をそのまま権利者の損害と推定する方法
3.ライセンス料*3相当額(著作権法114条3項):もし権利者が侵害者にライセンスを与える際に求めるライセンス料(ロイヤリティ)を損害と推定する方法(「違法行為をしても結局正規ライセンス料を払えばよい」とはならないよう、侵害行為があったことを前提としてライセンス料を請求する場合の額、つまり通常のライセンス料よりは高額になることが想定されている)
権利者は通常、自分に最も有利な算定方法を選択して交渉や訴訟を進めることになります。「ぶいすぽっ!」の事例では、示談内容こそ公開されていますが、具体的な算定方法は明らかにされていません。ただ、2千万円という金額からは、侵害者側はイラストの販売により相当な利益を得ていたことも推察されます。
――今回のように「一部の支払いで残額免除」というケースはよく見ますが、これはなぜなのでしょうか?
示談で「一部を支払えば残額免除」という条件が付く理由は、お金の回収可能性を考慮したものでしょう。債務者に全額を支払う能力がなかったり、強硬に請求すると支払わなくなる可能性があったりするときに、一部を払い切れば残額免除という条項を設けることで、少額でも確実に回収しようという判断です。
今回で言えば、もし250万円の支払いを怠った場合には2千万円まで請求できる権利があるので、債権者はプレッシャーを与えられます。
また、債務者にとっても「これだけ支払えば解決する」というメリットがあるので、なんとか金策をして払い切るインセンティブが生まれます。これは著作権侵害による損害賠償に限らず、金銭支払に関する和解ではよく取られる手段の一つです。
ただ、示談内容を公開することは比較的珍しいケースです。示談成立時には示談内容について守秘義務が約束されることも少なくありません。特に責任の有無に争いがあると、債務者側としては、高額の示談に応じたことが明るみに出ると「責任があるから支払った」と世間から思われることを嫌うはずです。
「ぶいすぽっ!」をはじめ、VTuber業界では示談の詳細金額が公開されることがあるとも聞きますが、これには運営としての対応をファン層に向けて説明する意味があるのかもしれません。
「ガイドライン違反や著作権侵害を行うと、このような高額な賠償金が発生する可能性がある」という教訓にもなりますね。今回の事例は、VTuber業界における著作権侵害・ガイドライン違反への対応が本格化していることを示す象徴的なケースと言えるかもしれません。
*1 VTuber バーチャル(Virtual)YouTuberの略称。CGで作られたキャラクター(アバター)を用いて、動画配信やライブ配信を行う配信者のこと。モーションキャプチャー技術により、演者の動きがリアルタイムでキャラクターに反映されるのが特徴。実在の人物(演者)とフィクショナルな(架空の)キャラクターの間をつなぐような存在として人気を博す。VTuberだけを専門に扱う芸能事務所もある。
*2 ぶいすぽっ! 株式会社バーチャルエンターテイメントが運営する女性VTuberグループ。e-Sportsといったゲーム領域に強みを持つタレントに特化したグループで、橘ひなの、小森めと、胡桃のあ、一ノ瀬うるはらが所属している。
*3 ライセンス料 特許や著作権などの知的財産を他者に使用許可する際に受け取る対価。使用料、実施料とも呼ばれる。
