2026年4月1日(水)

Wedge REPORT

2026年4月1日

 こうした裁判例から、明らかにフィクションであっても、実在の人物をモデルにしたキャラクターを侮辱的に描くことには、法的リスクがあると言えます。

――明らかなフィクションであっても、法的な危険性はあるということですね。

 さらに、芸能人などの場合は「パブリシティ権」の検討も必要です。

 パブリシティ権とは、社会的に影響力のある人物の氏名・肖像等の持つ顧客吸引力を不当に利用されないための権利として判例上認められたものです。

 ただしパブリシティ権侵害は、この顧客吸引力を「専ら」利用する目的がある場合に侵害とされています。例えば、有名人の顔写真の販売、肖像等を用いたグッズ販売、有名人の商品広告への利用といったものはこれに当たります。これに対し、作品・商品の一部分に芸能人を登場させれば直ちに侵害というものではありません。

 実際の事件を見てみましょう。元サッカー日本代表・中田英寿氏の半生を描き、表紙に本人の写真を大きく表示した書籍『中田英寿 日本をフランスに導いた男』について争われた事例です。

 裁判所は、中田英寿氏の写真や氏名は利用しているものの、書籍の中心的内容は関係者のインタビューや取材活動に基づく文章であり、書籍全体としては氏名・肖像の利用は一部分にすぎないことから、原告の氏名・肖像等の持つ顧客吸引力を専ら利用したものではないとし、パブリシティ権侵害を否定しました。

 判決文では、「著名人について紹介、批評等をする目的で書籍を執筆、発行することは、表現・出版の自由に属するものとして、本人の許諾なしに自由にこれを行い得るものというべきであり、著名人は、その書籍のタイトルや表紙に自身の氏名・肖像等が使われることも原則として甘受すべき」として表現の自由にも言及されています。

 この裁判例に基づけば、例えばお笑いコンビのBL同人誌を有料で販売するような場合も、それ自体で直ちにパブリシティ権侵害とまでは言えないように思われますが、その同人誌の内容も踏まえ、専らお笑いコンビの氏名や肖像の力で書籍を販売しようとしているかが検討されると思われます。

VTuberのキャラクター批判と「中の人」批判

――モデルとなる人物との関係で言うと、現実に存在していながら、外見はキャラクターであるVTuberって、微妙な存在なのでしょうか?

 そうなんです。VTuberは新たな法的課題を提起しています。VTuberはキャラクターであると同時に、その背後には演者である「中の人」が存在するため、VTuberへの誹謗中傷が名誉毀損となるかといった問題があります。

 この点について、大阪地裁2022年8月31日の判決では、VTuberに対する「仕方ねぇよバカ女なんだから 母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」といった誹謗中傷コメントが「中の人」に向けられていること、「中の人」はVTuberのアバターを「言わば衣装のようにまとって」活動していると言えることから、当該アバターへのコメントを「中の人」への攻撃と捉えて名誉感情侵害を認めました。

 こうした裁判例を踏まえると、VTuberの二次創作においても、「中の人」を直接侮辱すると捉えられる内容となると、名誉毀損や名誉感情侵害と判断されるリスクはあるでしょう。 ただし、VTuberの場合、どこまでが「キャラクター」への批判で、どこからが「中の人」への批判なのか、線引きが難しいという問題があります。

 例えば「このVTuberは歌が下手」という批判は、キャラクターというよりも「中の人」のパフォーマンスに向けられたものと解釈される可能性が高そうです(この発言が名誉毀損かどうかは別として)。他方、キャラクターの「見た目」だけを批判した場合は、あくまで外側のキャラクター批判と言えそうです。


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